抗体は次世代の分子標的医薬として注目されており、一本鎖抗体などの改変型抗体の利用も進みつつある。申請者は、これまでに変異能力を有するニワトリB細胞株DT40を利用してin vitro抗体作製システムを構築した。本研究では、他の抗体作製技術で取得された任意のモノクローナル抗体の可変部や一本鎖抗体を、ヒトIgG1抗体定常部とのキメラ抗体としてDT40細胞表面に発現させることができ、かつ、DT40の変異能力によって親和性成熟できる革新的な動物細胞ディスプレーシステムを構築する。さらに、構造的に安定な変異抗体を発現する細胞の濃縮方法や、効率的な高親和性抗体産生細胞の選択方法を確立して、有用な活性を有した抗体創出の効率化を図る。 本年度は、ヒトIgG1抗体定常部を発現するDT40の樹立を検討した。まず、DT40のIgM抗体定常部遺伝子をヒトIgG1抗体定常部遺伝子に、λ軽鎖定常部遺伝子をヒトκ軽鎖定常部遺伝子に相同組換えにより置換した細胞を樹立した。樹立した細胞株は、細胞表面と培養上清に発現されるニワトリ可変部7ヒト定常部キメラ抗体を発現し、また、この細胞株においてキメラ抗体の可変部遺伝子に効率的に変異を導入することに成功した。次に、一本鎖Fv抗体や単一ドメイン抗体を抗体定常部Fcとのキメラ抗体としてDT40-SWに発現させるために、軽鎖との会合に必要なCH1ドメインを欠損させたヒトlgG1抗体重鎖定常部(ヒトIgGl Fc)遺伝子を、上記と同様の方法でDT40-SWに導入した細胞株を樹立した。この細胞株の抗体可変部遺伝子をモノマー型の蛍光タンパク質mCherry遺伝子と置換することによって、ヒトIgG1 Fc融合タンパク質を発現するDT40-SW細胞株の樹立に成功した。この細胞株は、効率よく融合タンパク質を細胞表面と培養上清に発現し、蛍光タンパク質遺伝子への変異導入も可能であった。今後はこれらの細胞株を用いて、目的の抗体を産生する細胞クローンの選択法の開発を進める。
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