研究課題
本研究では、単一細胞中に含まれる低コピーのDNA分子をデジタル精密計測する手法論を開発することを目的としている。本技術の実証として、HIVをモデルとしたウイルス感染過程におけるウイルス由来核酸の動態追跡を行うことを目指した。これまでに、DNA1分子計測システムとしてマイクロドロップレットを用いたデジタルPCR法を開発した。本手法では、マイクロ流体デバイスを利用してPCR溶液をピコリットル容量の液滴に分配し、個々のドロップレット内でPCRを行い、DNA分子を可視化・カウントを行う。研究代表者の竹山は、主にデバイスの開発・実証実験を担当した。実際の精度評価には、HIV-1をモデルとしたプラスミドDNAおよびレンチウイルス感染細胞を利用した、これらは研究分担者の横田が行った。プラスミドDNAレベルでは、当初の目的として掲げた10コピー以下の低コピーDNA分子の定量が可能であり、理論値と実測値が一致することを確認できた。感染細胞を利用した評価では、ウイルス接種後24時間までの初期逆転写産物であるプロウイルス量の経時的変化を評価することができた。また、界面活性剤を含まない細胞溶解液では核内で形成される2-LTR DNAは検出されないことが示唆され、現在の系で細胞内のプロウイルスのみを定量可能であると判断された。しかしながら、単一細胞レベルでのデジタルPCRのさらなる高精度化には、ドロップレット化、PCR、検出を行うシステムの改良・高度化が必須である。一方、単一細胞レベルでの解析が可能となった場合を想定して、ヒト末梢血単核細胞から調整した初期培養CD4陽性T細胞を分化・活性化マーカーと増殖レベルで様々な亜集団細胞に分画するため、多重染色フローサイトメーターのプロトコールを作成した。
2: おおむね順調に進展している
本研究で開発したドロップレットデジタルPCR法の精度検証実験を行った結果、プラスミドDNAレベルでは、目的として掲げた10コピー以下の低コピーDNA分子の定量が可能であり、理論値と実測値が一致することを確認できた。感染細胞を利用した評価では、ウイルス接種後24時間までのプロウイルス量の経時的変化を追跡することができた。しかしながら、今後T細胞亜集団での感染進行の違いを単一細胞で評価するためには、ある程度の数の検体を再現よく定量する必要がある。
単一細胞レベルでの低コピー遺伝子の定量にはデジタルPCRのさらなる高精度化が必須であると考えた。そこで本年度は、分子カウントシステムの高度化を目的として、分担者として細川を加えてシステム開発を進める。具体的には、単一細胞中のウイルスDNA分子を定量するためにオンチップでドロップレット形成、PCR、デジタルカウントを行うためのデバイス改良に取り組む。X4型とR5型HIV-1の同時感染でそれぞれのウイルスの感染進行過程をモニターする系をT細胞株で確立する。これまでは初期逆転写過程のプロウイルスのみで行ったが、これを核内移行 (2-LTR)やintegration formの解析、更にはHIV-1 mRNAの測定系も確立したい。最終的にはこれらの手法を様々な細胞内環境を有する初期培養CD4陽性T細胞の単一レベルでの解析に応用していく。
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Frontiers in microbiology
巻: 4 ページ: 1-8
10.3389/fmicb.2013.00298