研究概要 |
船舶の航行の安全性を考えるとき,深水域ばかりではなく浅水域や狭水路等を航行する場合の操縦性能を十分に把握しておくことが重要である。本研究課題においては,船体に作用する流体力(船体流体力)に対して船型,水深,水路幅,斜航角,側壁との距離等が及ぼす影響を明らかにするとともに,側壁近傍航行時における船体流体力の変化を簡便に推定可能な数学モデルの構築を目的としている。 今年度は九州大学船舶運動性能試験水槽内に全長約20mの制限水域を設定し,方形係数Cbの値が0.8を超える肥大船を対象として,狭水路において側壁近傍を航行する場合に船体に作用する横力と回頭モーメントの計測を行った。船舶が狭水路を航行する場合には水路幅の制限により回頭運動は緩やかになり,生じる旋回角速度は極めて小さな値であると考えられるため,斜航試験のみを実施した。供試船としては既所有のタンカーの模型船を用い,実験パラメータとして水深喫水比,水路幅,斜航角,船体中央と側壁間の距離を種々変化させた。さらに,代表的な実験条件に対しては,五孔ピトー管を用いて船体と側壁間における流速の計測も併せて行った。 計測された横力と回頭モーメントの変化の傾向を見ると,船体と側壁との距離の違いによる流体力の変化は斜航角が正(船首が側壁から離れる方向)の場合よりも負(船首が側壁に近づく方向)の場合の方が大きく,一般的な傾向は過去に流体力の計測を行った他船型の結果と同様であった。しかしながら,制限水域において船体に作用する流体力と船舶が水路壁のない水域を航行した場合の船体流体力の差(側壁による干渉力)の成分を比較すると,水深が浅くなるほど船型による差が大きくなることが分かった。また,側壁による干渉力の着力点の位置や干渉力に影響を及ぼす船型パラメータについて検討を行い,数学モデル構築のための基礎データを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載していた既所有のタンカーを対象とした拘束模型試験を実施し,狭水路を航行中の船体に作用する流体力のデータを蓄積することができた。また,過去に計測を行った他船型の流体力データとの比較により,船型の違いによる干渉力の変化を把握することができた。従って,本研究課題はおおむね順調に進展していると評価することができる。
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