研究課題/領域番号 |
24360370
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
柴山 敦 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30323132)
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研究分担者 |
芳賀 一寿 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10588461)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 浮選 / 浸出 / ミネラルプロセシング / 不純物 / 銅鉱石 |
研究概要 |
銅鉱石中の不純物であるヒ素、アンチモン等の選択除去を目的に、平成25年度は、鉱物処理技術である浮遊選鉱法と浸出等の湿式分離プロセスを利用し、具体的な分離条件の調査と分離機構の考察を行った。 浮選では、代表的な銅-ヒ素鉱物である硫砒銅鉱(Cu3AsS4)と一般的な銅鉱物である黄銅鉱(CuFeS2)を対象に、両者の分離性を調査した。その結果、界面活性剤の添加による鉱物表面の疎水化や泡沫層の安定化が促されることで93 %の硫砒銅鉱が浮上するのに対し、黄銅鉱の浮上性は25%に留まった。このような浮遊性の差が発現する理由を解明するため、ハイスピードマイクロスコープ(VW-9000)と高速カラーカメラユニット(VM-600C)を用い、画像解析と気泡の発生状態ならびに粒子との接触、浮上に至る一連の挙動を観察した。さらに鉱物表面の解析を行うことで、界面活性剤の種類と添加量の違いによりEnargiteの浮遊性が影響を受け、気泡径が小さく、浮選セル内の気泡密度が高い条件下では短時間で高い回収率が得られることがわかった。また、浮選用水として海水を用いた場合、界面活性剤としてDOW froth 250を用いることで回収率は上昇し、銅品位の改善が見られるなど海水浮選によってもたらされる鉱物の浮遊特性を明らかにした。 次いで湿式分離プロセスでは、NaOHとNaHSを混合した水溶液でヒ素-アンチモン銅鉱石をアルカリ浸出し、ヒ素、アンチモンの沈殿生成条件と浸出液の再生、再利用について検討を行った。ヒ素とアンチモンを比べると、ヒ素の方が浸出速度が速く、Na3AsS4・8H2O沈殿を速やかに形成しやすいなど、両者の多段分離の可能性が示唆された。また、薬剤の再添加は必要であるが、沈殿回収後の溶液を浸出剤として再利用できることが確認され、高ヒ素-アンチモン含有銅鉱石の湿式分離条件を具体化することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究では、ハイスピードマイクロスコープ(VW-9000)と高速カラーカメラユニット(VM-600C)を用い、気泡の発生状態に加え、鉱物粒子と気泡の接触・浮上に至る一連の挙動を観察したほか、浮選条件の具体化や表面解析によって粒子の分離特性を明らかにした。この際、気泡の発生挙動と浮選セル内の平均気泡径を測定したほか、黄銅鉱粒子が気泡と接触し、付着・浮上する運動機構を視覚的に検証することができた。またXPSによる鉱物粒子の表面解析により、硫砒銅鉱あるいは四面銅鉱などではヒ素等による表面の配位が構造的に一部変化している可能性が示唆された。そのほか海水浮選時の気泡径の差や銅品位に与える共存鉱物の影響を明らかにした。一方の浸出試験に関しては、四面銅鉱を対象にNaHS-NaOH水溶液を用いたアルカリ浸出条件を調査し、ヒ素・アンチモンの浸出と多段の析出条件を明らかにした。これらの研究成果をまとめた結果、学術論文1編、国際会議報告2編(Copper2013等)のほか、国内学会(資源・素材学会等)で合計4件発表するなど、研究計画は概ね順調に推移したと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
浮遊選鉱法(浮選)では、過去2年間の研究で得られた知見を基に、溶液pH、液電位、浮選時間など浮選条件の最適化を行う。さらに浮選薬剤が各種鉱物の浮遊挙動に与える影響を調査し、鉱物の分離現象につながる制御条件を定量的に評価する。また、鉱物学的キャラクタリゼーションをもとに分離メカニズムについて検討を進める。一方、浮選では塩濃度の濃い地下水や海水を用いることが世界的に議論されている。例えば海水浮選では、気泡や粒子の浮遊性に不明な点が多いことから、鉱物の接触角や薬剤の吸着性、気泡径などの物性を調査し、分離性の差が生じる要因を探求する。さらにハイスピードカメラ等を用いることで浮選セル内の気泡の発生と粒子との接触、泡沫層(フロス層)の形成状態などを観察し、気泡-粒子間の微視的な運動モデルの考察を行う。そのほか銅や鉄、粘土成分など鉱石中の共存成分や主要元素の品位、鉱物組成、浮選条件などを比較し、浮遊性あるいは濃縮性に与える影響を調べる。 一方、平成25年度までの結果をもとに、浮選によって回収された不純物鉱石あるいはヒ素・アンチモンを高品位で含む鉱物群(天然鉱石)にアルカリ浸出を行い、浸出および沈殿分離プロセスを理論的に考察するとともに、一貫型の処理フローとして湿式分離プロセスを構築する。さらに高パルプ濃度(高固液濃度)でも処理可能な選択浸出条件を探索するほか、低品位鉱石や不純物が多い鉱石を処理するために、加圧酸浸出など附帯的な湿式プロセスを利用することで鉱物処理技術としての応用性を探索する。 以上の研究計画から、浮選を主とする1stステージと浸出・沈殿による2ndステージを結合させ、不純物鉱石あるいは低品位鉱石に対応する新たなアドバンスト・ミネラルプロセシング技術の基礎を確立し、分離条件を最適化する。また、得られた研究成果を取りまとめ、積極的な論文投稿、学会発表を行う。
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