研究課題/領域番号 |
24360395
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
荒河 一渡 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (30294367)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 照射損傷 / 格子欠陥 / 電子顕微鏡 / タングステン / 核融合炉 / 原子炉 / 転位 / 点欠陥 |
研究概要 |
原子炉・核融合炉構造材料の劣化の主要因は、中性子照射による格子欠陥の蓄積である。従って、欠陥蓄積過程をその素過程である個々の欠陥の生成と移動および欠陥同士の反応にまで遡って明らかにし、欠陥蓄積過程の全容を解明できれば、あらゆる照射条件における炉材料の正確な寿命予測に役立つと考えられる。本研究では、耐照射構造材料の比較的単純なモデル金属を対象として、先進の電子顕微鏡法を駆使して、照射欠陥の挙動を解明することを目的とする。 H25年度の成果は多岐にわたるが、特に顕著なものとして、高純度タングステンにおいて、転位ループの一次元すべり移動の活性化エネルギーを評価することに初めて成功した。この研究は、平成24年度において、転位ループの一次元すべり移動に電子線照射場が及ぼす影響を明らかにした成果に基づいておこなった。転位ループの導入には超高圧電子顕微鏡(大阪大学)による高エネルギー電子照射を用いた。転位ループの導入と同時に、原子空孔もあわせて導入した。転位ループは、不照射下では常温でも試料中に分散した不純物原子にトラップされ、静止し続ける。この試料に対し、超高圧電子顕微鏡(名古屋大学)を用いて、加速電圧 1000 kV、照射温度 14-300 K の温度範囲(この温度範囲では、原子空孔の熱的な移動は起こらない)で重畳電子照射を行い、転位ループの挙動をその場観測した。その結果、転位ループの移動頻度の温度依存性を測定できた。約 38 K 以上では、移動頻度はアレニウスの関係式を満たすのに対し、それ以下の温度では移動頻度は温度に依存しなかった。高温側の結果から、移動の活性化エネルギーを 9 meV と評価できた。一方、低温側での移動頻度の温度依存性の消失は、転位ループ移動における量子効果の発現を示す。これは自己格子間原子の移動頻度測定に関する従来の全ての実験の再解釈を要請する、重要な結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでにも固体内拡散における量子効果は、たとえば水素等の軽い元素については見いだされてきた。しかし、タングステンのような重い元素からなる系においても、その固体内拡散において量子効果が表れ得ることを示した実験は、本研究が初めてであり、従来のあらゆる金属における点欠陥実験の再解釈をも要請する。この成果は、研究開始前には予期していなかったものであり、本研究は当初の計画以上に進展していると言える。本成果は、Science 等のハイ・インパクト・ファクター誌へ投稿の予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目標は、(i) ナノサイズ欠陥の挙動、(ii) サブナノサイズの欠陥の挙動、(iii) 点欠陥の挙動、および (iv) 衝突カスケードの構造 に関する実験的知見を得ることである。現在、どの項目も順調に進展しており、今後もこれまで通りに研究を遂行する。特に、項目 (iv) については、フランス JANNUS-Orsay 施設の使用を平成25年度より開始しているものを進展させる。
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次年度の研究費の使用計画 |
繰越金は、H25年度当初の消耗品購入見込みのずれにより生じた。 使用計画は次のとおりである。設備備品(高真空部品)、消耗品(金属素材、化学薬品)、旅費(実験旅費(大阪、名古屋、フランス)、研究打ち合わせ、研究発表(フランス、アメリカ))、その他(論文別刷り、論文英語校正)。
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