研究実績の概要 |
26年度はベニハゼ属の一種カスリモヨウベニハゼを対象として, 鹿児島県奄美大島の内湾で採集した個体を飼育し観察を行った. 本種は泥質の海底に孤立して点在する岩に群れで生息している. 飼育には孤立した一群れを全て採集して用いた. 群れの性比は14:27と雌に偏り, 全長は雄よりも雌が有意に大きかった. 繁殖行動を観察した結果, 一度形成したペアが継続して繁殖を行う傾向にあり, 一夫一妻に近い配偶システムであった.成熟した雌雄の生殖腺を観察したところ, 雄は精巣のみ, 雌は卵巣のみを有する雌雄異体であることが明らかとなった. さらに幼魚では精巣組織・卵巣組織から成る両性生殖腺が見られた.このことから, 本種は幼時雌雄同体であることが明らかとなり, 幼時期の成長率によって性を分化させている可能性が考えられた. 配偶システム進化の遺伝的基盤となる塩基配列を特定するため,イレズミハゼ属2種,ベニハゼ属10種においてVT/IT遺伝子の上流域(転写調節領域)のクローニングと塩基配列決定を試み,昨年度はベニハゼ属2種のVT遺伝子上流域,4種のIT遺伝子上流域の塩基配列決定を新たに完了した.上記の配列を既知のベニハゼ属2種のものと合わせて比較すると,VT/IT両ホルモンにおいて成熟型ホルモンのアミノ酸配列はそれぞれ完全に一致し,ホルモン前駆体のアミノ酸配列についてもVT/ITでそれぞれ高い保存性が認められた.これに対し,ホルモン上流域の塩基配列にはVT/IT両遺伝子に種間で多様性が見られた.これは,ホルモンの転写調節機構の変異が行動の変化を導くことを示唆している.
|