研究実績の概要 |
ベニハゼ属イチンモンジハゼについて千葉県館山市伊戸海岸で詳しく観察した.本種は3-11尾のグループを形成しており,最大の個体が雄,その他が雌という社会構成で配偶システムは一夫多妻であることが明らかとなった.雌から雄への性転換は,構成個体が消失し残った雌が独身化した場合が1例観察された.雄から雌への性転換は,異なるサイズの雄どうしが同じグループになった2例で確認された.これらはすべてグループ内の社会順位が変動した際に起こり,これまでハレム型魚類で確認されているように,体長有利性モデルに合致する結果であった.奄美大島瀬戸内町においてエリホシベニハゼおよびウロコベニハゼを社会ユニット毎にサンプリングし,雌雄の尾数,サイズから配偶システムを推定し一夫多妻とした.既知の知見を統合すると,配偶システムが明らかになった種は12種となり, その内5種が一夫一妻, 7種が一夫多妻であることが判明した. 一夫一妻3種, 一夫多妻2種を用いて, VT遺伝子及びIT遺伝子上流域の塩基配列を決定した. VT遺伝子の転写調節領域には3種のステロイドホルモン応答配列 (アンドロゲン応答配列, エストロゲン応答配列, グルココルチコイド応答配列) が確認され, IT遺伝子ではエストロゲン応答配列が認められた.種間で比較した結果, 配偶システムと関連する変異は見られなかったが, アンドロゲン応答配列およびグルココルチコイド応答配列において, 雌雄異体のカスリモヨウベニハゼと雌雄同体の他種の間に塩基配列の変異が認められた. アンドロゲン, グルココルチコイドは魚類の社会行動・性転換に関与するので, VT遺伝子は性転換に関係した転写調節機構を有している可能性がある. 一方, 配偶システムの進化の遺伝的基盤については, 今後転写産物や生理基盤に着目する異なるアプローチが望まれる.
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