研究課題/領域番号 |
24370009
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石田 厚 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (60343787)
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研究分担者 |
中野 隆志 山梨県環境科学研究所, 自然環境富士山火山研究部, 主任研究員 (90342964)
安田 泰輔 山梨県環境科学研究所, 自然環境富士山火山研究部, 研究員 (40372106)
矢崎 健一 森林総合研究所, 植物生態研究領域, 主任研究員 (30353890)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 乾燥ストレス / 木部キャビテーション / 乾性低木林 / 湿性高木林 / 光合成 / 水ポテンシャル / 土壌深 / 樹高 |
研究概要 |
父島の乾燥尾根部に生育し材密度の異なる7樹種について、枝の枯死の連続長期調査を6月と12月に行った。この調査から、枝の材密度の低いテリハハマボウと、逆に枝の材密度の高いムニンネズミモチやハウチワノキで枝枯死率が高いことがわかった。コスト-ベネフヨットから考えると、枝の材密度の高い樹種で枝枯死率が高いことは、パラドックス的な現象である。上記から5樹種を選び、葉の水ポテンシャル、ガス交換速度、木部の通水性とキャビテーション(水切れ)率の季節変化を測定した。葉の水ポテンシャル値より、7月に最も土壌が乾燥することがわかった。夜明け前に測定した葉の水ポテンシャル値を土壌の水ポテンシャルと等しいと仮定すると、テリハハマボウが最も根系が深く、シマイスノキ、シマシャリンバイが中程度、ハウチワノキ、ムニンネズミモチが最も浅い根系を持っていると示唆された。そのことは、根の深さに依存したニッチ分化があることを示す。また夜明け前に測定した葉の水ポテンシャルが低い樹種ほど、晴れた日中の葉の水ポテンシャルも低下した。根系が浅いハウチワノキ、ムニンネズミモチでは、7月の乾燥期に、夜明け前に測定した葉の水ポテンシャルで-30bar、日中の葉の水ポテンシャルは-40barにも低下していた。一方8月以降、葉の水ポテンシャルは樹種間で明確な差異は見られなかった。またどの樹種も7月の乾燥期に木部道管の水切れが進み枝の通水性が大きく低下した。夏から秋以降、特にこれら材密度の高い樹種において、枝の通水性の回復率は低く、水切れを起こした道管の水の再充填能力が低いと考えられた。高い材密度の樹種は、浅い根系をもち、7月に大きく葉の水ポテンシャルが低下してしまい、また水の再充填能力も低いことが、枝の高い枯死率につながっていることがわかった。このことは乾燥に強い樹種が、枝の枯死率が高いというパラドックスを説明する要因であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
材密度の高い樹種が高い枝の枯死率を持つ。また材密度の高い樹種はより乾燥地に生育できるが、一方高い枝の枯死率を持つといった、新たなパラドックスが発見された。また乾燥期には、材密度の高い樹種ほど葉の水ポテンシャルが低下し、また水切れを起こした道管の再充填能力が低いことがそのパラドックスを説明する仮説として上がってきた。またこれらの成果は、日本森林学会第124回大会(盛岡)でポスター賞の受賞につながった。
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今後の研究の推進方策 |
今度、材密度と道管の水の切れ易さの関係、また道管直径や壁孔構造との関連性を樹種間で調べ、上記パラドッスを説明する仮説を検証していく。また小笠原では、乾性尾根部から湿性谷部にいくほど、樹高が高くなる。同樹種でも1mから16mと樹高が大きく異なることから、谷部から尾根部に生育するこれらの樹種の生理や解剖学的な特性を調べることによって、小笠原における乾燥適応への進化の仕方をより詳しく調べていく方針である。
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