研究課題/領域番号 |
24370009
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石田 厚 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (60343787)
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研究分担者 |
矢崎 健一 国立研究開発法人 森林総合研究所, 植物生態研究領域, 主任研究員 (30353890)
安田 泰輔 山梨県富士山科学研究所, 自然環境研究部, 研究員 (40372106)
中野 隆志 山梨県富士山科学研究所, 環境教育・交流部, 主幹研究員・部長 (90342964)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 樹木の乾燥枯死 / 木部キャビテーション / 木部貯蔵糖分 / 乾燥耐性 / 世界自然遺産小笠原 / 乾燥化 / 温暖化 / 植生変異 |
研究実績の概要 |
今年度は特に、1)乾燥尾根部から湿性谷部へ分布幅と樹高を変化幅の異なる樹種間で、葉の形質、安定同位体測定、2)また乾燥尾根部に生育し水利用戦略の異なるテリハハマボウとムニンネズミモチについて、夏の乾燥期に木部道管の水切れ(キャビテーション)が進行とともの木部内デンプンが可溶性糖に変わり、降雨が来て水切れが解消されると、可溶性糖はデンプンに再変換されることがわかった。また3)兄島の乾燥地でウラジロエノキを対象に枯死・衰弱過程の指標としてHuber valueを指標にし、木部道管の水の切れ方とともに、個体の器官ごとに、木部内の可用性糖やデンプン量を調べた。その結果、生細胞のダメージによる師部の糖輸送の障害によると思われる、幹基部での貯蔵糖の減少が、乾燥枯死を引き起こす表徴になっていることがわかった。 樹木枯死のメカニズムとして、現在世界的にも、「木部の水切れによる枯死仮説」と「糖の欠乏仮説」の二つが提唱されており、決着がついていない。今回の結果は、上記二つの仮説は完全に分かれず、相互に関連していることを示す。今後さらに樹種や個体数を増やし、樹木枯死メカニズムに対する新規統合仮説の検証を行っていく予定である。このことは、樹木の乾燥耐性機構の理解ばかりでなく、温暖化等による乾燥の進行による樹種組成や森林機能の変化予測にも不可欠なデータになっていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画は以上に順調にこなされている。特に樹木の乾燥耐性戦略多様性を理解することが当初の主要目的であったが、さらに現在、樹木乾燥枯死のメカニズムの解明にまで研究が発展してきている。樹木の乾燥枯死の生理メカニズムとして、現在「木部キャビテーションによる枯死仮説」と「糖の欠乏仮説」の二つが主仮説として提唱されており、世界的にも未だ決着がついていない。今回の結果は、木部キャビテーションと糖との相互関係を明らかにし、上記二つの仮説を統合した新規仮説を立てられる可能性を世界で初めて見いだし、その成果はNature Groupの雑誌であるScientific Reportsに掲載された(2016年4月15日掲載)。さらに糖の欠乏や木部キャビテーションを起こす前に、師部細胞のダメージにより糖の師部輸送に障害が生じていることもわかってきた。これらの研究をさらに進め、樹木枯死メカニズムに対する新規仮説の検証を進めていく。これらの成果は、樹木の乾燥耐性機構の理解ばかりでなく、温暖化等による乾燥の進行による樹種相変化の予測にもつなげていけるため、当初の計画以上の成果が出て来ていると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
小笠原は世界自然遺産サイトであり、保護林であるため、環境省や国有林化に必要な許可をとって、毎年研究を行っている。これらは今後とも継続し、法令に遵守して研究を行い、また貴重な森林の破壊につながらないように注意を払っていく。 樹木の乾燥耐性の違いに沿って、より他樹種を対象にし、夏の乾燥期間における道管の水切れと、木部貯蔵糖の動態とその意義について、より詳しく解析していく。またもう一方の調査として衰弱過程の指標としてHuber valueを指標にしていったが、その後の成長や死亡率などから、その指標が妥当なものかどうかを査定し、樹木乾燥枯死の生理メカニズムの解明と論文化を進める。特に野外樹木の乾燥枯死では、糖の欠乏仮説を支持しない論文も出てきているが、我々の去年の予備調査では、著しく細胞ダメージを受けている細胞内にデンプンが取り残されていることを観察しており、このことが、糖の欠乏仮説を支持しないという誤ったデータ解釈を導いているのではないかと考えている。そこで最終年度は、さらに乾燥による細胞ダメージと細胞内の糖の関係を、解剖学的に注意して調べていく。
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