研究課題/領域番号 |
24370011
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
巌佐 庸 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70176535)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 社会生態結合ダイナミックス / 異所的種分化速度 / 累進的処罰 / 種の絶滅の中立モデル / 細胞性粘菌の進化 / 社会的規範間のコンフリクト / 環境教育への最適投資 / 遺伝子ネットワークの進化 |
研究概要 |
生物は野外において競争者や餌、捕食者などさまざまな他種と相互作用をし、進化・表現型可塑性・行動選択によって適応し、環境を自らに適応的なものへと改変させる。互いに深く関連した生物群とそれらの物理環境を含めたシステムを生態系もしくは生物圏という。生態系の構造と動態の理解をすすめるために、次の3つの視点に立った研究を集中的に行うことが目的であった。 (1)生態系を構成する種の生活史適応とその生態系インパクトの研究:このテーマについては、初年度に大きな成果があがった.第2年度はそれらの論文のいくつかが掲載された。さらに海洋生物の生活史と性表現についての動態ゲーム理論、細胞性粘菌の細胞レベル協力進化などの論文を執筆した (2)種多様性の生成と喪失の数理的研究:初年度は、種の絶滅プロセスに関する中立理論にもとづいた公式を発展させ,その後ブラジル森林について行われた鳥類種数減少予測の問題点指摘を行った。第2年度では、異所的種分化に関する新たな理論を発展させることができた,その結果はEvolutionary Ecology ResearchやRoyal Society Interface Focus等に掲載された。 (3)ヒトの選択動態と生態系動態の結合ダイナミックスの研究:第2年度では、自然資源管理についてルールを決めて違反者を処罰するとき、処罰の強さが違反の害とともに増大する累進的処罰の理論的研究をすすめ、その論文が掲載された。また保全区域を管理するに亜たらい、社会の関心を惹き付け高めるための活動(環境教育など)にどれだけの人的、経済的な資源を投入すべきかという動的最適化理論を展開し論文を掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、15年の原著論文を出版し、また台湾の国立清華大学や米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校へのそれぞれ長期の研究滞在などにより共同研究がすすんだ。オーストリアの国際システム分析研究所のグループとの熱帯林の違法伐採の進化ゲーム理論の展開も優れた業績であるが、論文執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
つぎの2つに集中したい。 (1)熱帯林の違法伐採の進化ゲーム理論: 熱帯域での伐採の大部分が違法に行われている。これは取り締まるべき監視者が賄賂を受け取って見逃すためである。進化ゲーム理論をすすめている。林業者に違法伐採をする/しないなどの3タイプ、監視者に賄賂を受け取る/受け取らないの2タイプがあるとして解析したところ、違法伐採がほとんど起きない状況と横行する状況の2つがともに安定になり、中間がないことや、監視者の教育が非常に大きな効果があること、個々の監視者について賄賂を受け取るかどうかの情報があると状況が改善されることなどが証明できた。関連するテーマとして、異なる社会規範の間でのコンフリクトのダイナミックスを解析しており、それらを論文としてとりまとめたい。 (2)異所的種分化速度の新しい理論の導出:これまで20年間にわかって無視されてきた異所的種分化の理論的研究を進めており,論文がいくつか刊行される。それをさらにするめ、種がこのメカニズムで生成される速度が、地理的構造、総個体数、競争者の数などによってどのように決まるかを導き、それと以前に導いた絶滅率の公式を組み合わせて種の多様性の新しい理論を構築する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に置いて計画していた生物多様性保全に関する社会的関心の喚起のための投資の研究は順調に進み,予定より早く論文掲載になったが、その研究の途中で、モンゴルの遊牧民を対象にしたモデリングプロジェクトおよび熱帯林の違法伐採に関するプロジェクトが進展した。そのためそれぞれのグループとの交流や現地調査などを平成26年度に行うことが本来の研究計画を進めるにあたって効果が高いと判断した。平成26年度には数理生物の国際会議がスウェーデンや中国で開催されるため、それに出席して発表することにもなった。そのような最初段階では予想できなかった研究の進展にともなっての計画を変更することになった。 平成25年度に使用する予定であった海外調査や研究交流は別の経費によって行われたため、それを平成26年度にあるモンゴル遊牧民の研究者との交流や進化ゲーム理論の研究者との交流等にもちい、長期でスペインなどにも長期訪問すること,加えて新たに加わった研究を遂行するために必要な計算機を数台購入するように使用するように計画している。
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