研究概要 |
細菌界にも,広い意味での捕食(生きている生物を殺して餌とする)の現象が一部に存在することが知られている.一方,そのような捕食に対する逃避行動は知られていない.本研究は,細菌にも捕食に対する逃避行動が存在することを示すことを目的とした.我々は,細菌の種間相互作用を研究する中で,他種の分泌するプロテアーゼに反応して,ある細菌が運動速度を大きく上げて凝集することを,2010年に発見した.この細菌は,プロテアーゼ濃度が高いと溶菌しプロテアーゼ産生細菌の餌となると考えられることから,4年間の本研究で,「細菌界における捕食に対する逃避行動を明確に示す」ことを目的とした.緑色糸状性光合成細菌Chloroflexus aggregansは温泉水中に発達する微生物マットに広く観察される.C. aggregansの存在する55℃域の微生物マットから好気従属栄養条件で生育するプロテアーゼ生産菌を前年までの研究で得た.それらの菌は,C. aggregansの細胞を栄養源として生育できることが示され,C. aggregansの捕食者と考えられた.その捕食者からの逃避行動を示すため,C.aggregansの細胞を軟寒天培地に懸濁して試験管に入れ,その上からプロテアーゼを含む軟寒天培地を重層した.55℃,光照射下で培養したところ,プロテアーゼ層に近い部分のC. aggregansの細胞密度が減少し,プロテアーゼ層から離れた部分の細胞密度が上昇した.プロテアーゼを添加しない系では,この現象は見られなかった.この結果から,C. aggregansはプロテアーゼを感知し,反対方向に移動すると考えられた.本研究により,プロテアーゼに対する逃避行動が存在することが強く示唆された.研究1年目で,細菌界において捕食に対する逃避行動を示すという研究目的の大筋が達成された.今後,詳細な機構の解明に取り組む.
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