研究課題/領域番号 |
24370013
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
松浦 克美 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (30181689)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 微生物群集 / 光合成細菌 / 滑走運動 / 捕食 / タンパク質分解酵素 / プロテアーゼ / 逃避行動 |
研究実績の概要 |
動物は生物を補食して生きているが,細菌がタンパク質分解酵素を細胞外に分泌して外部の細菌等を分解してその成分を摂取することも,「捕食」とされる.本研究は,捕食からの逃避行動が細菌界にも存在することを,世界で始めて提案しようとする研究である.本年度の研究で,「タンパク質分解酵素の作用により逃避行動が誘発される」という実験結果がほぼ整理された. 用いた細菌は,好熱性の酸素非発生型光合成細菌である緑色糸状細菌Chloroflexus aggregansである.この細菌は,光エネルギーなどを利用して滑走運動することが知られており,その運動によって液体中に分散している細胞が凝集体を形成する.この細菌は,50-70℃の温泉流水中の微生物群集の重要な一次生産者であり,様々な細菌と密な相互作用をしている.プロテアーゼを分泌して緑色糸状細菌の運動性を高める細菌株5株と精製されたタンパク質分解酵素を用いることにより,タンパク質分解酵素によって緑色糸状細菌の運動性が促進されることを発表した. 運動の方向性がタンパク質分解酵素とどういう関係にあるかを明らかにするため、寒天培地内に封入した緑色糸状細菌の一方に隣接してタンパク質分解酵素を含む寒天培地を接触させたところ,緑色糸状細菌の反対側への移動を観察した。移動速度は,3時間で最大3 mm 程度に達した.プロテアーゼ層に近接した細胞は一部,溶菌がみられた.別の実験で,溶菌した細胞を栄養源にタンパク質分解酵素生産細菌が成育することも観察した. 本年度の研究により,タンパク質分解酵素生産菌は,緑色糸状細菌の細胞を溶菌・捕食して生育することがより明確になった.また,溶菌に至らない低濃度のタンパク質分解酵素が存在すると,緑色糸状細菌はタンパク質分解酵素を感知し,捕食から逃避することがほぼ明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
4年間で進める計画であった結論を得るために必要な主要な実験結果は,すでに本年度までの3年間に得られた.仮説として研究計画に記載した内容が,ほぼ証明されようとしている.本年度の交付申請書に記載した主要な結論に至るための実験も順調に進行してほぼ期待通りの結果が得られた.結論を強化すべく,計画以上のものとして分子機構を明らかにすることを目指す研究を合わせて進めている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,4年計画の最終年度である平成27年度に,本研究の集大成となる論文を作成して投稿することを計画している.合わせて,逃避行動の分子機構についての仮説を明確にする研究を進め,本研究の継続研究に引き継ぎたい.
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