研究概要 |
干潟堆積物表面に存在するバイオフィルムが小型シギ類の主要な食物源となっていることが,これまでの研究によって初めて明らかにされ,干潟生態系の食物網構造においてパラダイムシフトが起きた.鳥-バイオフィルムの直接的なリンクを扱うこの新たな研究分野を生態学の中心的課題である食物網研究につなげていくため,本研究では,最適採餌理論ならびに個体レベルの形質の適応進化の観点からシギ・チドリ類におけるバイオフィルム採餌が整合的に説明できるか,生態学・生理学・形態学・系統学を融合した現地調査・実験・解析から実証することを目的とする. シギ類では,舌先の棘毛エリアが大きく,体サイズが小さい鳥ほど,より多くの食物をバイオフィルムに依存することが可能で適応的であると予測されている.この予測を,個体ベースで実証するためのデータを取得した.現地干潟において,かすみ網を用いてシギ・チドリ類を一時捕獲した.個体ごとに形態(棘毛エリア,翼長,体重)を写真撮影し,画像解析により計測した.あわせてその個体の糞などを採取した. バイオフィルム採餌においても,鳥類が適応的な採餌行動を示すかどうかについて,最適採餌理論と実測データとの突き合わせから整合性を検証するためのデータを取得した.現地干潟において,望遠ビデオカメラを用いて採餌行動を撮影し,探索時間,処理時間,捕捉速度および捕捉された底生無脊椎動物サイズについて解析する映像を取得した.バイオフィルムの構成成分(藻類など)について解析するため,現地でバイオフィルムを採取した.また,その他の餌生物について,CN含有量や熱量を測定し,熱量モデルを用いて解析するため,現場で餌生物を採取した. 来年度から餌選択と食物網影響に関する飼育実験を開始するための,飼育施設整備や飼育方法調査などの準備を実施した.
|
次年度の研究費の使用計画 |
上記の飼育実験をするための準備(飼育施設の整備,飼育方法調査など)が平成24年度に整ったため,平成24年度未使用の助成金と合わせて飼育実験を実際に開始するために必要な経費,ならびに,平成24年度の研究内容を継続するために必要な経費を支出する.
|