研究課題
凍結耐性が異なる二種の単子葉植物(カラスムギとライムギ)を用い、マイクロドメインタンパク質と脂質の大規模網羅解析を行った。その結果、両種において、各種トランスポーターやステロール、スフィンゴ脂質などがマイクロドメインに集積していることを明らかにした。さらに、低温馴化過程で、これらの成分がダイナミックに変動しており、さらに、いくつかのマイクロドメイン構成成分の低温馴化過程における変動パターンが凍結耐性の低いカラスムギと高いライムギで異なっていた。従って、マイクロドメイン組成や低温応答性の違いが細胞膜の安定性やマイクロドメイン機能の調節に影響し、植物の凍結耐性の差異に関与していることが示唆された。次に、シロイヌナズナを用いて、GPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)の網羅的同定および低温馴化過程における変動の検出を試みた。その結果、163種のGPI-APが同定され、多くのGPI-APが低温馴化処理により増減していることを明らかにした。さらに、低温馴化応答性GPI-APとしてAt3g04010を選び出し解析を進めた。低温馴化後のAt3g04010ノックダウン変異体は野生型よりも凍結耐性が低かった。また、At3g04010は維管束組織などの物質輸送に関与する組織で強く発現する遺伝子であった。これらの結果から、At3g04010は低温馴化過程や凍結融解過程で物質輸送を適切に調節し、凍結耐性獲得に貢献しているものと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
マイクロドメインのプロテオーム及びリピドーム解析は順調に進み、低温馴化能力と関連した種間の違いなども検出できた。また、GPIアンカー型タンパク質の網羅的解析においては、いままで報告されていた数倍ものタンパク質を同定することに成功し、本研究で確立した解析方法の優位性を示すことができた。さらに、低温応答性で低温馴化機構に関与しているGPIアンカー型タンパク質の機能解析も順調に進んだ。しかし、MbCDを用いてマイクロドメインを破壊してその影響を見る実験は、実験条件の確立に至らず更なる遂行を断念した。それらをのポジティブなものとネガティブな状況を判断しても当初考えていた成果以上のものが得られているので、「おおむね順調に進展している」と評価した。
本研究課題の最終年度に当たる平成27年度は、いままでに得られた成果を論文化するためのデータ取得を進め、いくつかの成果をまとめて論文化することに集中する。特に、平成26年度に得られた成果(リピドームやGPIアンカー型タンパク質解析)について確実に成果発表を進めたい。
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Plant Molecular Biology Reporter
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