研究課題
本研究課題で策定した2年目の研究状況と実績を以下にまとめる。1)フェレドキシン(Fd)と亜硝酸還元酵素(NiR)との静電的および非静電的相互作用力を変化させたとき、亜硝酸とNH2OHを基質としたときのNiRの酵素反応特性が異なることを見出した。種々の解析を進めて、FdとNiR分子間相互作用は分子間電子伝達反応の効率だけではなく、NiR基質認識の特性を決める要因の一つにもなり、特に酸化還元中心近傍の非静電的相互作用部位の寄与が主要なものであるとの仮説を提案した。2)Fdと亜硫酸還元酵素(SiR)の電子伝達複合体の構造や物性を生化学的、生物物理学的な研究を進めた。ITCによる分子間相互作用の熱力学解析により、エンタルピーとエントロピー変化の両方が寄与していることが明らかになった。また、この相互作用は溶液中の塩濃度で大きな影響を受けることが判明した。この現象を、NMRによるFdのHSQCスペクトル解析によりアミノ酸残基レベルでの検証を進めている。Fdからの電子を受容する機能が低下したSiR変異体においては、この相互作用力が著しく減少していることが確認された。3)高等植物に存在する新奇Fdの構造や機能の研究を進めるため、大腸菌発現系を構築したが、アポ蛋白質として調製された。これに、鉄硫黄クラスターを化学的に再構成する試みを種々の条件で行ったが、まだ良好な結果は得られていない。このFdのホモログは好熱性ラン藻類にも存在するので、その安定性の高い分子種を代替えする準備を進めている。4)Fd:NADPH酸化還元酵素(FNR)とFdとの親和性が、NADP(H)の存在により数十分の一に減少する。この現象をNMR測定により解析し、FdとFNRの接触面を中心とした相互作用の変化があることを突き止めた。ピリジンヌクレオチドによりFNRの接触面の構造変化が起こると推定している。
2: おおむね順調に進展している
フェレドキシンとパートナー酵素群との弱い分子間相互作用の実体について、結晶構造をもとに動的な構造解析や物理化学的解析へと進展している。、先行している研究成果は論文として公表され、進行中のものは学会発表されており、研究計画が概ね順調に進展していると判断した。
分子間相互作用の包括的理解のためには、生化学、物理化学的な研究手法に加えて、葉緑体や植物体そのものを対象にした生理学的な研究をさらに発展させる必要があり、26年度以降はこの方面の研究にも人的配置と予算的投資を行う予定である。
物品費の使用が当初予定していたものより大幅に少なくなったが、これはNMR測定の感度の向上や研究の一部が平成26年度送りになったことから、試料調製に必要な安定同位体の窒素化合物や炭素化合物の量が低く抑えられたこと、および当初予定していた研究代表者の外国出張が研究所業務と重なり延期したためである。繰り越した次年度使用額の一部は、共同研究を行っている外国人研究者2名の招へいにあてる。平成26年度の研究費は、この招へい旅費と国内外への派遣旅費、および高価な試薬等の物品費に使用予定であり、この部分は当初計画とは大きな変更はない。
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