研究課題/領域番号 |
24370022
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
中島 敬二 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 教授 (80273853)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 植物 / 発生・分化 / 胚発生 / 生殖細胞 / リプログラミング |
研究実績の概要 |
我々は植物に特有のRKD4が、初期胚の発生を制御する重要な鍵因子であることを明らかにした。さらに、シロイヌナズナに存在する他の4つのRKD遺伝子についても、初期胚内の微小な領域で特異的な発現パターンを示すことを見出している。本研究では、RKD転写因子群や下流遺伝子群の機能解析を通じて、これまで知見の少ない植物初期発生の制御機構を分子レベルで明らかにする。 1.RKD遺伝子の生物学的機能: レポーター解析により、RKD1-RKD4の4遺伝子が卵細胞で発現し、それ以前の雌性配偶体細胞では発現しないことが明らかとなった。次にRKD遺伝子の機能を遺伝学的に解析するため、多重変異体の作製を試みた。RKD2については、新たな変異アレルの単離に成功していたので、まずRT-PCRにより転写産物が蓄積していないことを確認した。この変異体の胚珠を観察した結果、ごく低頻度ではあるが、雌性配偶体の形成に異常を示す胚珠が野生型よりも多く存在することが示唆された。さらにこのrkd2変異体とrkd1変異体の二重変異体では、異常な雌性配偶体の比率が上昇することが示唆された。 2.RKD4タンパク質が直接発現制御する遺伝子群の同定: RKD4は転写因子として機能すると推定されている。RKD4とGFPの融合タンパク質を誘導的に過剰発現させると、分化した体細胞が胚性の未分化細胞へと初期化され、GFP蛍光は細胞核に局在していた。この植物に対して抗GFP抗体によるクロマチン免疫沈降をおこない、共沈降したDNAを次世代シーケンサー解析することで、RKD4が結合するゲノム領域の特定を試みたが、ウェスタン解析でRKD4-GFP自体の回収を確認できなかった。そこでGFPの替わりにHAまたはMycエピトープとの融合タンパク質として過剰発現させ、抗HAまたは抗Myc抗体による免疫沈降を行った結果、十分量の結合DNAが回収された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RKD4の機能解析については、この遺伝子の発現量が予想以上に低く、GFP融合タンパク質を過剰発現させても、蛍光が弱く、わずかなタンパク質の蓄積しか検出されないなど、研究を進める上で多くの困難があった。融合タンパク質については、HAやMycタグに交換し、過剰発現ベクターのデザイン変更や、大量の形質転換ラインの作製を経て、ようやく解析に用いる植物を確立することができた。これらのラインを用い、マススペクトル解析による相互作用因子の探索と、クロマチン免疫沈降実験による結合ゲノム領域の同定をおこなっている。本研究課題の研究期間を1年間延長し、平成28年度にこれらの解析結果が出ることが期待される。これとは別に、rkd4変異体と野生型の初期胚の比較トランスクリプトーム解析の結果を得ており、2つのデータを合わせて、RKD4が初期胚の発生を制御する際に標的とする遺伝子が同定されることが期待される。 RKD4以外のRKD遺伝子群については、胚発生よりも卵細胞の形成に機能することが考えられた。複数のRKD遺伝子が冗長的に機能していると考えられるため、多重変異体の作製と表現型解析を急ぐ予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1. RKD4が結合するゲノム領域の同定 RKD4-HAまたはRKD4-Mycの融合タンパク質を誘導的に過剰発現する植物を用いて、クロマチン免疫沈降と次世代シークエンス解析により、RKD4が結合するゲノム領域を同定する。これまでに誘導過剰発現後のマイクロアレイ解析と、rkd4変異体と野生型植物の初期胚の、次世代RNAシークエンスによる比較トランスクリプトーム解析の結果をいるので、これらのデータを合わせて、初期胚発生性制御における標的遺伝子を絞り込む。また、これらの遺伝子の初期胚における発現パターンを、rkd4と野生型で比較することで、RKD4が初期胚発生のパターン形成を制御するメカニズムを考察する。 2. 卵細胞形成におけるRKD遺伝子群の機能 RKD1-RKD4遺伝子の多重変異体の解析を進める。卵細胞の形成に異常があった場合には、ホモ個体がとれず、次世代の分離比に異常が生じると予想されるため、遺伝子型の解析により、卵細胞形成の必須因子であるかを解析する。また卵細胞以外の助細胞や中央細胞などでRKD2を異所的に発現させ、細胞運命が転換するかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究材料の準備に予想外の時間がかかり、研究期間を1年間延長した。
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次年度使用額の使用計画 |
クロマチン免疫沈降や多重変異体を用いた実験のデータが出次第、これらを基に解析をさらに1年続けることとし、繰越金は、そのための消耗品購入や成果発表のための旅費や論文投稿料に充てる予定である。
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