我々は植物に特有のRKD転写因子ファミリーの1つであるRKD4が、シロイヌナズナ初期胚の発生を制御する重要な鍵因子であることを明らかにした。さらにゼニゴケを用いた研究により、RKDが進化的に保存された生殖細胞形成の制御因子であることを明らかにしている。本年度はシロイヌナズナとゼニゴケを用いて、RKDの下流で機能する遺伝子群の同定を行った。 1. RKD4が結合するゲノム領域の同定: エピトープタグされたRKD4を誘導的に過剰発現するシロイヌナズナ植物を用いて、クロマチン免疫沈降と次世代シークエンス解析によりRKD4が直接結合する遺伝子を300個同定した。結合部位別の内訳は、5’上流域に結合する遺伝子が103、内部に結合する遺伝子が142、3’下流域に結合する遺伝子が55であった。過去のトランスクリプトームデータと比較した結果、5’上流域や内部に結合する遺伝子のうちの約4割は、RKD4の過剰発現に応答して発現誘導されることが分かった。これらの標的遺伝子には、DNAのメチル化に関与するものや、既知の胚発生制御因子が含まれており、RKD4がこれらの遺伝子を直接統御するマスター因子であることが明らかとなった。 2. ゼニゴケの卵形成に関与する遺伝子の同定: ゼニゴケのゲノムに単一遺伝子として存在するMpRKD遺伝子を破壊すると、卵細胞の分化が阻害される。卵形成時の細胞壁動態に着目し、野生型と破壊株の造卵器の多糖成分を免疫染色により比較した結果、野生型で見られるセルロースやキシログリカンの消失が、ノックアウト株では見られなかった。さらに野生型と破壊株の造卵器を回収し、RNA-seqによる比較トランスクリプトーム解析を行った。その結果、MpRKDに依存して造卵器で発現する遺伝子群の中に、セルロース分解酵素をコードすると推定される遺伝子が見出され、上記の表現型に寄与する可能性が示唆された。
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