本研究では、インドール-3-酢酸(IAA)と異なる輸送機構で調節されるオーキシンであるフェニル酢酸(PAA)の生理的役割を明らかにするため、遺伝学的および生化学的なアプローチによりその作用機構について解析した。 植物界におけるPAAの分布を調べた結果、IAAと同様に蘚苔類を含む様々な植物に存在することが分かった。PAAのオーキシン活性を側根の形成促進作用やDR5:GUSを指標に解析するとIAAに比べて10-20倍程度低かったが、シロイヌナズナでは分析した全ての組織に存在し、また殆どの組織でIAAよりも内生量が高いことが判明した。PAAの情報伝達機構について酵母ツーハイブリッド法を用いて調べた結果、PAAが様々な様々な組み合わせのオーキシン受容体複合体(TIR1/AFB-Aux/IAA)の形成を促進したことから、IAAと同様にTIR1/AFB経路を介してオーキシン応答遺伝子を制御することが示唆された。シロイヌナズナのIAA/PAA早期応答遺伝子をマイクロアレイにて解析したところ、両者により発現が誘導される遺伝子に高い相関が見られたことから、植物における2つのオーキシンの役割は類似していると考えられた。PAAの生合成経路については、酵素活性試験やPAA代謝物の定量分析の結果からIAA生合成遺伝子として知られるTAAとYUCCAの関与が示唆されたが、これらの遺伝子の欠損変異体におけるPAA量の減少が僅かであったことから、他の生合成遺伝子が関与している可能性も考えられた。一方、輸送機構については、トウモロコシの幼葉鞘への重力刺激やオーキシン極性輸送阻害剤処理により、内生のIAAとPAAの分布パターンに顕著な差が見られた。以上の結果、IAAとPAAは植物において似た生理機能を示すが、移動特性が異なることを明らかにした。
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