本研究の最終年度(平成26年度)は、これまでの本研究ではじめて見出した、メダカ雄成魚におけるエストロゲン(エストラジオール-17b、E2)による機能的性転換機構を解析した。生後3か月の雄成魚にE2処理を開始して3日後には、雌生殖腺のマーカー遺伝子であるFig1aの発現が増加を示したが、雄マーカー遺伝子であるGsdfやSox9a2などの発現は減少した。また、未分化幹細胞マーカーであるKLF、SAL4、OCT4、NONOG等の発現が減少し、逆に細胞分化マーカーであるGFR1aやNOTCH等の発現は上昇した。 一方、処理開始3日後から40日後まで精巣周辺で生殖細胞の増殖が起こった。この時、細胞分裂マーカーであるBRDUの発現は、E2 処理開始前には散在的な発現を示したが、E2 開始20日から40日後には、上記の精巣周辺の生殖細胞に限って強い発現が観察された。この間、E2処理によってBRDU陽性のクラスター数は変化せず、陽性細胞数のみが増加した。また、これらの細胞では、GFR1aタンパク質が上昇し、OCT4タンパク質は減少することが免疫細胞学的解析で明らかになった。次いで、これらの生殖細胞群をGFR1a coated magnet beadsを用いて単離して、細胞培養を行った。その結果、これらの生殖細胞はE2処理を開始することにより細胞分裂を開始し、上記の幹細胞としての細胞特性を失う(OCT4遺伝子の発現が減少し、逆に、OLVAS遺伝子の発現が上昇する)ことが明らかになった。これらの結果を総合すると、上記の精巣周辺に局在する生殖細胞群は生殖幹細胞の特性を有し、E2処理により雌生殖細胞へと分化する生殖幹細胞群であると結論された。現在、これらの単離生殖幹細胞を生殖細胞欠如雌雄生殖腺に移植して卵や精子へと成熟するかを調べている。この結果が得られてから、論文として国際誌に投稿する予定である。
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