研究概要 |
本研究では、カイコガのフェロモン源定位行動とその情報処理系を対象とし,セロトニンの分泌による脳内環境の変化がもたらす基本回路の特性変化を,マルチスケールな手法により機能的に分析することで,脳内環境が行動を修飾する神経機構を明らかにし,環境に適応的な行動発現の基本原理を解明することを目的とする. 本年度はまず脳内のセロトニン分泌細胞の入出力領域のマップの構築を目的として、セロトニン合成酵素の一つであるトリプトファン水酸化酵素遺伝子(BmTRH)のタンパク質翻訳領域の上流配列約3.7kbをプロモーターとしてGAL4を発現する遺伝子組換えカイコガ(BmTRH-GAL4)の作出を行った。BmTRH-GAL4系統をUAS-GFP系統と交配し、オス成虫の脳におけるGFP標識細胞の分布を解析した結果、脳のさまざまな領域でGFP標識細胞が観察された。GFP標識細胞とセロトニン免疫陽性細胞の分布と比較したところ、BmTRH-GAL4/UAS.GFP系統はセロトニン免疫陽性細胞の一部でGFPを発現することが示唆された。これは、キイロショウジョウバエ以外の昆虫種で、遺伝子組換えにより脳内の生体アミン分泌細胞で外来遺伝子の発現に成功した初めての例である。一方で、特にフェロモン情報処理に重要な領域である触角葉、キノコ体、側副葉と呼ばれる領域に分枝するセロトニン分泌細胞ではGFPの発現は確認できなかった。これらの結果から、本年度に作出した系統だけでは、セロトニン分泌細胞の網羅的なマップの構築は困難であることがわかった。そのため、次年度では本年度作出した系統を用いた入出力マップの構築、機能分析と並行して、プロモーター領域を変更したBmTRH-GAL4系統や、他のセロトニン合成酵素遺伝子のプロモーターを利用したGAL4系統を作出する予定である。
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