研究実績の概要 |
本研究では,カイコガのフェロモン源定位行動とその情報処理系を対象とし,脳内環境が行動を修飾する神経機構を明らかにし,環境に適応的な行動発現の基本原理を解明することを目的とする. まず前年度に作出した,セロトニン合成酵素(トリプトファン水酸化酵素遺伝子)のプロモーター下でGFPを発現する系統の解析を実施した.前年度,本系統で観察された,側副葉に分枝する両側性の神経細胞の詳細な構造を調べるために,蛍光抗体染色法によりGFP蛍光の増感を試みた.これにより蛍光強度の増加はみられたものの,GFP発現量が十分でなく,結果として詳細な分枝パターンの同定にはいたらなかった.並行して,同プロモーター下で光感受性イオンチャネルであるチャネルロドプシン2(ChR2)を発現する系統を作出するとともに,脳内のChR2発現細胞をねらって刺激するために,青色光を特定のパターンで照射できる刺激系の開発を進めた.組換え系統および刺激系の確立にはいたったものの,これらの系の確立に想定より長期間を要したため,光刺激による特定のセロトニン分泌細胞の機能解析にはいたらなかった.今後これらの技術を利用して,速やかに機能解析を実施したい. また,研究の過程で, (1)フェロモン情報処理の主要回路の一つでありセロトニンの作用領域である触角葉の神経回路において,フェロモンの個々のフィラメントの絶対濃度情報が,過去に受けた匂いに対する相対濃度情報に変換されて高次へ出力されること(Fujiwara et al., 2014),(2)フェロモン源探索行動のパターンを修飾する機構として,行動状態に依存して視覚情報(オプティックフロー)を利用していること,(Pansopha et al., 2014)を見出した. なお本研究に関連して,原著論文を3報,総説を2報,著書を1冊,発表するとともに,国内外の学会において成果の発表を行った.
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