研究課題
本年度は旧食虫類の各系統を用い、頭蓋諸骨の系統性と機能性を吟味した。サイズの小ささが障害となり、十分なモデル化が完了していないが、引き続き検討と解析を繰り返すことで証拠固めを重ねている。頭蓋については、歯列形態の特性や咀嚼筋の形状・サイズを三次元的な検討対象として、系統性の判別を考慮しつつ、摂食機能を精査した。一方で感覚器官を検討する際に、中枢神経と感覚器装着部位の大型化が旧食虫類共通の特徴であることを重視し、発生学的な骨化パターンのデータを比較論議に加えることで、哺乳類の原始性・旧食虫類の普遍性を示唆する形質を見つけ出すことに成功した。前頭骨、頭頂骨、外後頭骨、底後頭骨に対する、相対的な上後頭骨の早期出現と大型化が、旧食虫類の基本的頭蓋構造を特徴づけていることを示すことができた。また、聴覚装置において、マイクロCTの運用により、中耳形態を完全に三次元化し、生活史との関係を定量的に把握することができ、現在も結果を発表に向けて論議、総合している段階である。無盲腸類以外ではテンレック類やツパイ類、周辺の系統では翼手類や皮翼類、齧歯類、食肉類や偶蹄類を用い、集積される北半球系統の旧食虫類のデータに対して、アフリカ獣類や近傍の系統を比較し、収斂形質が内包する真の機能的意義を解明、収斂の実態に迫りながら対象の特性に合ったデータ化を遂行した。各データの系統間比較の結果、これまでのところ、運動機能を中心に収斂を示しやすい形態学的特徴の抽出が進みつつある。他方で、アフリカ獣類においてのみ特殊化する形態形質も見出され、今後の議論の深まりが期待できる。
1: 当初の計画以上に進展している
発生学的検討が功を奏し、予定よりも大きな進展に成功した。収斂と系統的制約の関係を明確化する際の残された課題であった旧食虫類タイプの、すなわち原始的哺乳類・真獣類の大型頭蓋形成の特質を上後頭骨の発生タイミングに求めることができたためである。旧食虫類の形態学的多様性の把握が大きく進捗し、旧食虫類的収斂形質の実態を明確化できたことが特筆される。
旧食虫類という概念は、分子系統学の功績であるが、地球規模での真獣類の系統と適応を解明するにあたって、重要で本質的な概念として定着した。今回の発生学的知見を基軸に、マクロ系統としての特徴とそれを決める発生学的素因あるいは制約を明瞭にできたと考えられる。今後頭蓋のみならず、様々な部位に見られる旧食虫類の収斂形質の機能性を明確にとらえ、真獣類の原始性と派生性の内実を、より確かな理論として記述することが重要となろう。
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