研究概要 |
Thg1は,tRNA^<His>の5'端にG塩基を付加する酵素であり,通常のDNA/RNAポリメラーゼと逆向きにRNAを伸長する能力を持つ.本研究ではThg1とtRNA^<His>複合体のX線構造解析を行い,その構造をもとにThg1による逆向きの塩基伸長反応の分子機構の詳細を解明するとともに,通常の鋳型依存DNA/RNA伸長反応と本酵素の関係を明らかにして,鋳型依存DNA/RNA伸長反応の分子進化の謎に迫ることを目的としている.このために,真核生物型Thg1とtRNA^<His>複合体(euThg1-tRNA^<His>複合体)の立体構造解析を第一目標としながら,同時に原核生物型Thg1の単体およびtRNA^<His>複合体の構造解析にも取り組み,最終的には両酵素の構造と反応機構を明らかにし,DNA/RNAポリメラーゼと比較することで,鋳型依存DNA/RNA合成の分子生物学の新しい展開を図ることを計画した. 計画に基づき,初年度にはeuThg1-tRNA^<His>複合体の構造解析を重点的に行った.その結果,Thg1-tRNA_<His>複合体の構造を3.6A分解能で解明する事に成功し,同時にATPとの複合体の構造を2.4Å分解能で明らかにした.得られた構造では,2分子のtRNAが4量体のThg1と結合しており,1分子のtRNAは3分子のThg1と相互作用をしている.このサブユニットにまたがる結合が,小さなThg1分子がアンチコドンとCCA端というtRNA分子の両端を認識することを可能にしている.またThg1の活性部位の構造は,通常の鋳型依存DNA/RNAと類似しているが,tRNAは鋳型DNA/RNAと比べて反対の方向から活性部位に近づいている.これにより類似の活性部位を用いながら,逆向きの伸長が可能になる. また,原核生物型Thg1についても,発現,精製,結晶化に成功し,その構造を3.1Å分解能で解明した.
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今後の研究の推進方策 |
proThg1-tRNA^<His>複合体の構造解析を行うために,複合体の結晶を得ることに注力する.同時に,活性に関与すると思われる残基を変異させた変異体を作成し,その活性を測定することで反応機構を解析する.一方,既に構造解析に成功した,euThg1とproThg1の立体構造の比較を行い,また,両者のGTP,ATP複合体の構造の比較から,認識機構ならびに反応機構の違いを説明する.最終的にはThg1が持つ3'-5'方向RNA伸長反応機構を明らかにし,鋳型依存DNA/RNA伸長反応の分子進化の構造基盤を確立する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度には,当初の予定と比べ,蛋白質の発現,精製,結晶化などが非常に順調に進展したので,使用予定の経費の一部を節約することが可能になったばかりでなく,既に次年度の計画の一部を推進できている.国際的に競争の厳しい課題であるので,次年度には可能なすべての経費を使って研究を進展させ,論文発表を急ぐ.
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