研究概要 |
緑膿菌はしばしば多剤耐性化して臨床の場で問題となっているが、多剤排出タンパクがこの耐性化の主要な原因である。また現状ではこの病原菌に対する有効な治療薬はない。24年度は、感染症の原因菌である緑膿菌の持つRND型多剤排出タンパク(TolC共役型)MexBの結晶構造を解くことに成功し、次いで特異的阻害剤(ABI-PP)との結合構造の解析にも成功した。これは異物排出トランスポーターオリエンテッドな構造に基づいた創薬の足がかりとなる成果である。 ABI-PPはMexBに限らず大腸菌AcrBの優秀な阻害剤であるが、一方で緑膿菌の多剤耐性に重要なもう一つの排出タンパクMexYを阻害できない。そこでAcrBとMexBのABI-PP結合構造を決定した。これにより阻害剤結合ピットの存在が明らかとなった。このピット入り口付近には、AcrB,MexBではPhel78が位置し阻害剤との相互作用に重要な役割を果たしているが、MexY(ホモロジーモデル)ではTrp177であり、その大きな側差がABI-PPと立体的な障害となっていることが予想された。AcrB/F178W変異体ではABI-PPによる阻害を受けなくなり、逆にMexY/Wl77F変異体ではABI-PPに阻害されるようになったことはこの推定を裏付けるものであった。ところが、MexB/F178W変異体は依然としてABI-PPに感受性を保っていた。この原因を明らかとするために、MexB/F178WのABI-PP結合構造を決定した。結果は野生型と同じピットに結合しており、TrpはPheの代わりに機能していた。AcrBとMexYでTrp側差に立体障害を回避して同様の配向をとらせるためにV139A(AcrB),I138A(MexY)変異体を作成した。今度はいずれもABI-PPに阻害される性質を示した。これにより異物排出タンパクのABI-PP阻害特異性は、その結合ピットの立体障害により決まることが明らかになった。
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