研究課題/領域番号 |
24370047
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
神田 大輔 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (80186618)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | N型糖鎖修飾 / 翻訳後修飾 / X線結晶解析 / 膜タンパク質 / 糖転移酵素 / 古細菌 / 動的構造 |
研究概要 |
タンパク質のアスパラギン残基への糖鎖付加(N型糖鎖付加)は翻訳後修飾の代表である.コンセンサス配列 Asn-X-Thr/Ser中のAsn残基への糖鎖の転移反応はオリゴ糖転移酵素と呼ばれる膜タンパク質酵素が触媒している.N型糖鎖修飾は真核生物だけではなく,古細菌にも広く存在する.また,真正細菌の一部にも存在する.OST酵素の触媒サブユニットはSTT3/AglB/PglB(真核/古細菌/真正細菌)と呼ばれるタンパク質である. 超好熱古細菌Archaeoglobus fulgidus由来の3つのオリゴ糖転移酵素のパラログのうち,AglB-L(全長868残基)を,C末端にヒスタグをつけた形で,大腸菌を用いて発現した.膜フラクションを界面活性剤であるDDMを用いて可溶化後,Niセファロース,スロンビンによるタグ除去,ゲルろ過を用いて精製した.ゲルろ過においてDDMをOGおよびLDAOに置換した.OGおよびLDAOサンプルから,空間群C2(分解能2.5A)と空間群P43212(分解能3.4A)の2つの結晶が得られた.C末端可溶性ドメインの立体構造を分子置換のサーチモデルとして用いて構造決定を行った.N末端膜貫通領域には複数の保存された酸性残基があり,2価金属イオンに配位した構造をとって酵素活性中心を形成していること,C末端可溶性ドメインにはコンセンサス配列のセリン・スレオニンの側鎖を結合するポケットがあることがわかった.C2結晶の構造には2価金属イオンの近くに,結晶化溶液に含まれていた硫酸イオンが結合していた.これは反応プロダクトであるドリコールリン酸のリン酸基をミミックしていると考えている.また,2つの膜貫通ヘリックスをつなぐ長いループ(EL5と呼ぶ)はディスオーダーして電子密度が観測できなかった.EL5のダイナミックな構造変化を中心とした,糖転移反応サイクルのモデルを提案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
膜タンパク質であるオリゴ糖転移酵素の結晶構造決定が完了したことの意義が大きい.論文にまとめて発表した.今後,基質との共結晶の構造決定やNMR メチオニンメチル基のmethyl TROSY測定による動的構造の解析などの発展課題が拓けた.
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今後の研究の推進方策 |
基質(ペプチドおよび脂質結合型糖鎖)や生成物(糖ペプチドおよびリン酸化脂質)との複合体の構造解析を目指す.結合が弱いことを考慮して,分子間ジスルフィド結合を導入することで,ペプチドや糖ペプチドを酵素タンパク質にテザリングする.すでにペプチドをテザリングした結晶を得て,結合したペプチドに対応する電子密度を得ているが,低分解能(3.4A)であるため,コンセンサス配列の認識の詳細を議論できない.そこで,結晶コンタクトしているアミノ酸残基を置換して,分解能が高い複合体の結晶の作製を試みる.一方,古細菌の脂質結合型糖鎖の化学構造については不明な点が多い.脂質結合型糖鎖を構成するオリゴ糖鎖,リン酸基の数,脂質部分の化学構造は古細菌ごとに異なる可能性があるので,それぞれの種ごとに検討をする必要がある.A. fulgidusのN型糖鎖の化学構造決定のためのNMR解析を昨年度に引き続き進める.リン酸基の数と脂質の化学構造については,培養古細菌菌体より脂質結合型糖鎖を有機溶媒抽出し,イオン交換で精製した後に,順相HPLC-マス装置でMS/MS解析を行う.これらの情報をもとに脂質結合型糖鎖の水溶性アナログ(糖鎖部分が単糖~2糖のみ,脂質部分の鎖長が短い)の化学合成を共同研究として行い共結晶化実験に用いる.A. fulgidusのAglB-Lのメチオニン残基のメチル基を13C標識した試料を作製し,Methyl-TROSY NMR測定を行う.13C-methyl基シグナルの化学シフト変化や化学交換を測定することで,AglB-Lの構造変化が酵素活性発現にどのように寄与しているかを残基レベルで解析する.以上の結果をまとめて,国内外の学会で発表し,3編の論文としてまとめる予定である
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次年度の研究費の使用計画 |
人件費として使用する予定であったが,実際には雇用しなかったため,次年度に繰り越すことになった. 次年度は新たにmethyl-TROSY NMR解析を始める予定である.13Cメチル標識したメチオニン,重水,重水素標識した界面活性剤の購入に充てる.特に,重水素標識した界面活性剤は高価である.また,標識体が市販されていない界面活性剤を使用する場合は,重水素標識体の化学合成を外注することも考える.
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