タンパク質のコンセンサス配列 Asn-X-Thr/Ser中のAsn残基への糖鎖の転移反応はオリゴ糖転移酵素と呼ばれる膜タンパク質酵素が触媒している.N型糖鎖修飾は真核生物だけではなく,古細菌にも広く存在する.また,真正細菌の一部にも存在する.古細菌の触媒サブユニットはAglBと呼ばれる膜タンパク質である.昨年度に,界面活性剤存在下で精製したA.fulgidusのAglBタンパク質全長の立体構造決定を行った.同時に基質であるペプチドとの複合体構造を得ることを目指したが,単純な混合では共結晶を得ることができなかった.そこで,AglBタンパク質にシステイン残基を導入し,ペプチド側にも導入したシステイン残基との間に分子間ジスルフィド結合を作らせた複合体を作製した.なお,システイン残基の導入位置は,ペプチドとの共結晶が既に得られている真正細菌のPglB酵素の立体構造を参照して行った.結晶構造解析の分解能は低下したが,ペプチド基質が伸びたコンホメーションで結合していることがわかった.糖鎖付加コンセンサス配列Asn-Val-Thrのうち,Asn残基の側鎖は2つの酸性アミノ酸残基および2価金属イオンと共に,carboxylate dyadと命名した特殊な構造を形成していた. 真核生物や真正細菌の脂質結合型糖鎖(LLO)に比べ,古細菌のLLOの化学構造は多様であり,古細菌の種ごとに構造決定を行う必要がある.培養菌体から有機溶媒抽出したのち,陰イオン交換と順相HPLCにより分離し,ESI-MS分析を行うことで,LLOの脂質リン酸基部分の化学構造決定を行い,P.furiosusとA.fulgidusのLLOでは,ドリコール-モノリン酸であることを見いだした.真核生物と真正細菌ではリン酸基の数は2個であるので,古細菌のLLOの独自性を示している.今回明らかにしたLLOの化学構造をもとに,共結晶作成のための水溶性LLOアナログの化学合成を行うことができる.
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