研究課題
細胞は力学的刺激に応答して、形態、極性、接着性、運動能、増殖能を大きく変化させるが、メカノシグナルを化学シグナルに変換する分子機構の多くは不明である。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に繰返し伸展刺激を負荷すると、細胞は伸展方向と垂直方向に細胞の長軸とストレスファイバーを配向させるが、このような力覚応答においてRhoファミリーは重要な役割を担っている。私達は、繰返し伸展刺激依存的なHUVECの再配向に必要なRhoファミリー活性化因子(Rho-GEF)を網羅的に探索し、Dblファミリーに属するRho-GEFであるSoloを同定した。Soloは細胞間接着部位の局所に強く局在し、その部位ではアクチン繊維の異常な集積が認められた。また、高密度培養条件下では、Soloの発現抑制により、繰返し伸展刺激依存的なHUVECの再配向が顕著に阻害されたが、低密度条件下では、Soloの発現抑制による細胞の再配向の抑制効果は見られなかった。以上の結果から、Soloは繰返し伸展刺激依存的なHUVECの垂直方向への再配向において、細胞間接着を介した力覚応答に関与していることが示唆された。さらに、Soloの活性化機構を解明するため、Halo-tagを用いたプロテオーム解析を行い、Solo結合蛋白質として中間径フィラメントを同定した。Soloは中間径フィラメントと相互作用することによって、細胞の力覚応答に関与すると考えられる。また、乳腺上皮細胞の細胞外マトリクスの硬さ依存的な形質転換に関わるRho-GEFとしてFarp1を同定し、Farp1がインテグリンと結合して、アクチン骨格の再編成を誘導することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
力覚応答に関与するRho-GEFをshRNA発現抑制ライブラリーを用いて網羅的に探索し、血管内皮細胞の繰り返し伸展刺激による細胞の再配向に関わるRho-GEFとしてSoloを、乳腺上皮細胞の細胞外マトリクスの硬さ依存的な形質転換に関わるRho-GEFとしてFarp1を同定した。H25年度は、Soloの結合蛋白質として中間径フィラメント成分を同定し、Soloが中間径フィラメントとの結合を介して力学的刺激を受容していることが示唆された。また、Farp1についても、インテグリンと結合することや、Farp1依存的に細胞接着や細胞増殖が制御されていることが明らかとなった。以上の結果から、力学的刺激依存的なRhoファミリーの活性化機構とアクチン骨格制御機構について研究が順調に進展していると判断した。
力学的刺激依存的なRho-GEFの活性化機構について、Soloについては、中間径フィラメントとの結合変異体やGEF活性変異体を用いて、力覚応答における寄与をさらに解明してくことが重要である。また、in vitro伸展実験により、Rho-GEF分子自身がメカノセンサーとして機能している可能性についても検討していく。また、Farp1については、インテグリンとの結合部位を同定し、細胞外マトリクスの硬さ依存的なRho-GEF活性の活性化におけるインテグリンとの結合の意義を解明していくことが必要である。
H25年度は、購入を予定していた細胞伸展チャンバーなどが工学部との共同研究により使用可能になり、購入しなくてよくなったこと、予定していた海外での学会発表に参加しなかったことから、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、研究の遂行に必要な細胞培養用試薬、分子生物学用試薬などの消耗品の購入や、国内外の学会、シンポジウム参加のための旅費、論文投稿費として用いる計画である。
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Mol. Biol. Cell
巻: 25 ページ: 828-840
10.1091/mbc.E13-09-0540.
http://www.biology.tohoku.ac.jp/lab-www/mizuno_lab/