研究課題/領域番号 |
24370052
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
堀越 正美 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 准教授 (70242089)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヒストンシャペロン / ヌクレオソーム / 化学修飾 / 構造変換 / ヌクレオソームアセンブリー / ヌクレオソームディスアセンブリー / ヒストン / ヒストンバリアント |
研究実績の概要 |
ヌクレオソーム構造変換機構については、ヒストン (H3-H4)2四量体からH3-H4二量体2個への変換(Nature, 2007)及びヒストン修飾からヌクレオソーム構造変換(PNAS, 2010)の知見を得、その成果を踏まえて個々の素反応での特異性がどのように生まれるのかを解析し、多様な外部情報の縮小化の仕組みを解明することに努めた。一方で、ヌクレオソーム表面の機能ドメインの解析を更に進めた(Genes Cells, 2012)上に、新しい方法を導入し、H2A型及びHtz1型ヌクレオソームの機能性の差異を検出するために両複合体共通サブユニットの機能解析を進めた(PNAS, 2014)。この解析は、複数の複合体中の共通サブユニットの機能を明らかにするもので、数十年来の難題だったが、今回初めて知見が得られた。更に、ヒストンModification web theory (Genes Cells, 2009)を提出したものの、4種類のヒストンテイル領域が生存に必須でないといった知見が研究の進展を阻んでいたが、1種類のテイル領域が生存に必須であること、生存を脅かさない欠損株では、H3の化学修飾が変わらない知見を得、新しい研究展開を示すことになり、web内で起こる仕組みをようやく明らかにすることができた(論文作成中)。以上の知見は非常に新しい研究展開を含んでおり、現在、i) 多様化を極めた多細胞生物ヌクレオソーム内の共通サブユニットの機能解析、ii) テイル領域内の修飾ネットワーク構造が示す頑強性の仕組みの更なる解析を進めている(論文準備中)。また、30年来の報告者の課題であった転写開始システムの起源に関する解析に大きな進展が見られ、約30億年前のシステムを明らかにすることになった(論文投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヌクレオソーム構造変換機構について、ヌクレオソーム表面の機能ドメインの解析を進め、従来にない方法を導入し、H2A型及びHtz1型ヌクレオソーム機能性の差異に関する知見を得た(PNAS, 2014)。このことは、複数の複合体中の共通サブユニットの機能を明らかにしたもので、数十年来の難題を解いたことになる。これまでに、ヒストンシャペロンCIAがヌクレオソーム構造変換反応で重要な役割を果たすことを示した(Nature, 2007; PNAS, 2010)一方で、反応基盤であるヒストン修飾部位の点変異が細胞増殖に変化をもたらさない知見が得られ(Genes Cells, 2007)、解析したところ、修飾間関係が複雑ネットワーク構造を形成していることを突き止め、細胞増殖能が点変異等に対し頑強である知見を説明する“Modification web theory”、修飾が行われる天然変性領域の特性である可動性や柔軟性がシグナル情報処理及びネットワーク構造形成の基盤になることを示した“Signal router theory”を提出した(Genes Cells, 2009)。修飾が起こるテイル領域の機能的役割や特性をネットワーク構造の観点からの解析がヌクレオソーム構造変換の基盤の解明には必要であり、解析を進め、1) 今迄に報告された結論と異なり、H4テイル領域の欠損が細胞機能に必須であること、2) テイル領域の欠損が起こってもH3の修飾に変動が起こらないことが分かった(論文作成中)。これらの知見は、修飾ネットワーク構造システムの頑強性を支える具体的なメカニズムを初めて示したものとなった。また、報告者の30年来の課題であった遺伝子制御システムの起源を明らかにし、約30億年前のシステムが現在のシステムと異なる知見を得るに至った。このような解析は生物学者、進化学者にとっては不可能とされていた。
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今後の研究の推進方策 |
現在迄の解析を更に押し進める他、ヒストン修飾間関係を明らかにするには、大きなテイル欠損ではなく、修飾間関係を断ち切る最小の構造欠損を見出すには、点変異体や多重点変異体の解析が必須となった。この解析により、どの修飾とどの修飾が補完しているかが明らかになり、頑強性を示す修飾間関係の複雑ネットワーク構造を支える具体的なエッジ状態を描くことになる。具体的には、多重点変異ヒストンを用いて、1) 他ヒストンの修飾能、2) ヌクレオソーム構造変換能、3) マイクロアレイによる全遺伝子発現を検討し、修飾ネットワーク構造及びその生物学的特性を明らかにする。また、30年来の課題であった遺伝子発現のシステム進化をモデル系に、全生物分野で初めての快挙となる約30億年前の生体反応システムを明らかにした。この成果は、足を踏み入れることが不可能とされていたシステム進化機構を開拓したもので、今後の研究の中心課題とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
化学修飾ネットワーク構造を介したヌクレオソーム構造変換におけるヒストンテイル領域の機能的役割の解析を行うにあたって、欠失ヒストンテイル株を用いて、遺伝学的解析、化学修飾解析、遺伝子発現マイクロアレイ解析を実行したところ、予想した知見だけでなく、予想を超える知見を得たので、それらの知見を有効な形でまとめていくには、欠失ヒストンテイル株だけでなく、多重点変異ヒストンテイル株の解析が必要となった。
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次年度使用額の使用計画 |
多重点変異ヒストンテイル株の作製、それら変異株を用いての遺伝学的解析、化学修飾解析、及び遺伝子発現マイクロアレイ解析を行うこととし、それら解析に関わる研究費、及び研究成果発表のための海外出張、共同研究のための国内出張、及び研究成果の論文取りまとめ、発表等の費用に充てることになる。
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