研究課題
本研究の目的は、細胞膜上の「脂質ラフト」でのシグナル伝達とその制御機構を解明することである。そのため、蛍光色素ATTO594でラベルされた代表的なラフト分子のGM1やGM3や膜受容体の1分子づつの挙動を細胞膜上で追跡した。ガングリオシドプローブ分子は、ともに短寿命のホモダイマーを形成していたが、これらは、コレステロールにより安定化されていた。また、このホモダイマー形成には、糖鎖間相互作用が重要であることが明らかとなった。GPIアンカー型タンパク質のCD59も短寿命のホモダイマーを形成するが、CD59ダイマーとガングリオシドモノマーとの共局在期間の方が、それぞれのモノマー間の共局在期間よりも長かった。逆にガングリオシドダイマーとCD59モノマーの共局在期間の方が、それぞれのモノマー間の共局在期間よりも長かった。これらの結果は、すべてのラフトは、すべてのガングリオシドを含むわけではなく、ラフトごとに違う種類のガングリオシドやGPIアンカー型タンパク質を含むことを示している。つまり、それぞれのラフトには独自性があることを示唆している。また、ガングリオシドGM3が主な成分であるラフトは、EGF受容体のダイマー化や活性化を抑制したが、他のガングリオシドが主成分であるラフトは抑制しなかった。これらの結果は、独自性を持った短寿命のラフトが、EGF活性化制御に重要な役割を担っていることを示唆している。
1: 当初の計画以上に進展している
ラフトにはそれぞれ独自性があるということや、それぞれのラフトが膜受容体の活性制御に関わることを見出せた。これらは、今までのラフトの概念とは異なるものであり、予想外の発見であった。今後のさらなる研究により、脂質ラフトの概念を変え、ラフトの理解が格段に進むかもしれない。
会合体ラフト形成機構を解明する。前年度までの研究で、ラフト分子でGPIアンカー型タンパク質CD59は、短寿命のホモダイマーを形成し、これが糖脂質ガングリオシドなどのラフト分子を短期間リクルートすることを見出した。さらに、ガングリオシドもそれぞれ独立に短寿命のホモダイマーを形成し、GPIアンカー型タンパク質をリクルートすることも発見した。このようにラフト分子は、それぞれ独自にホモダイマーを形成し、他のラフト分子を集め、短寿命のラフトを形成することを発見した。そこで、今年度はそれぞれのホモダイマー形成機構を解明していく。ガングリオシドプローブのどの糖鎖相互作用がホモダイマー形成に必要かを確定する。これにより糖鎖相互作用による会合体ラフト形成という全く新しい概念が提案できるかもしれない。また、ガングリオシドがどのようにEGF受容体の活性を制御しているのかを解明する。前年度までにガングリオシドGM3が、EGF受容体のダイマー形成や活性化を阻害することを見出した。今年度は、さらにEGF受容体とGM3の間の糖鎖相互作用機構を解明する。
残金41,227円は、予定題目に来年度使用予定物品の購入を計画
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