研究課題/領域番号 |
24370063
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
富重 道雄 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50361530)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 分子モーター / 生物物理 / 一分子計測(SMD) / ナノマシン / 細胞内輸送 |
研究概要 |
本研究は、分子モータータンパク質キネシンが微小管上を二足歩行運動する仕組み、特に2つの頭部をつなぐネックリンカーが頭部間の協調性を生み出す仕組みを明らかにすることを目的とする。昨年度は、全反射型暗視野顕微鏡を用いて金コロイドで標識したキネシンの片方の頭部の運動を50マイクロ秒の時間分解能で観察することによって、頭部が微小管に結合・解離した状態を区別して頭部の運動を詳細に観察することに成功した。今年度は、この手法をネックリンカー部位に対する変異体に応用することによって、キネシンの協調的な二足歩行運動におけるネックリンカーの役割の解明を目指した。まずネックリンカーを人工的に伸ばした変異体を作成し、全反射型暗視野顕微鏡を用いてこの変異体の頭部の運動を観察したところ、微小管から解離した頭部が頻繁に後ろの結合部位に再結合する様子が見られた。再結合する頻度は野生型ではほぼ0%であったのに対し、変異体では25%程度に上昇した。また微小管から解離した状態を取る時間が野生型に比べて短くなった。一方、ネックリンカーを1アミノ酸削って短くした変異体では、頭部が微小管から解離した状態を取る時間が長くなり、また前方の結合部位にアクセスするもののすぐに外れて元の位置に戻る様子が観察された。これらの結果は、ネックリンカーが長くなる(張力が軽減する)とATP結合前に後ろの結合部位に再結合しやすくなり、一方短くなる(張力が増す)とATP結合後前方にステップしにくくなり、協調性が損なわれることを示すものである。つまり、野生型のネックリンカーはこれらを防ぐことによって協調的な二足歩行運動を可能にしていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画にはなかった全反射暗視野顕微鏡を用いてキネシンの運動を計測することにより、従来の計測手法では測ることが難しかった遷移状態の構造や時定数、さらにはoff-pathwayの構造遷移(特に頭部が後ろの結合部位に再結合する様子)を求めることが可能になり、研究計画で記載した仮説の検証をより効率的に進めることができた。特に研究計画の最も重要なテーマである、ネックリンカーが頭部間の協調性に与える役割について新しい示唆を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
暗視野顕微鏡装置による高時間分解能計測法を用いてキネシンの2つの頭部をタンデムにつなげた変異体の運動を計測する。当初はFIONA(高分解能蛍光検出法)を用いて観察する予定であったが、暗視野顕微鏡の方が200倍時間分解能が高く、より多くの情報が得られるため計測法を変更する。また、金ナノロッドで頭部を標識して、その回転運動を全反射暗視野顕微鏡によって観察することによって、キネシン頭部のATP加水分解に伴う回転を検出する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初は一分子FRET法を用いてキネシン頭部の回転状態を検出する予定であったが、この手法では運動中の回転運動を検出することが困難であることが予備実験により判明したため、それよりもはるかに時間・空間分解能の高い金ナノロッドを用いた高速暗視野顕微鏡法を用いてキネシン頭部の回転計測を行うことにした。そのため次年度に、さまざまな変異体を作成して標識場所の最適化を行い、また暗視野顕微鏡装置を改変する必要が生じた。 様々な変異体を作成して金ナノロッドの標識位置の最適化を行うために、遺伝子組み換え・タンパク質精製のための試薬を購入する。また変異体作成を行うための実験補佐員1名を雇用する。さらに暗視野顕微鏡装置を改変するための光学部品の購入を行う。
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