本研究は、分子モータータンパク質キネシンが微小管上を二足歩行運動する仕組み、特に2つの頭部をつなぐネックリンカーが頭部間の協調性を生み出す仕組みを明らかにすることを目的とする。昨年度までは高時間分解能暗視野顕微鏡を用いた観察により、後ろ頭部が解離した後、前の結合部位に選択的に結合する仕組みを明らかにした。今年度は、協調的二足歩行に必要なもう一つの仕組み、つまり両足結合状態において、前の頭部よりも後ろの頭部が先に微小管から解離する仕組みを明らかにすることを目指した。我々はこれまでの研究から、キネシン頭部におけるATP加水分解の促進にはサブドメインの回転が必須であり、前頭部ではネックリンカーが後ろに引っ張られることによってサブドメインの回転および加水分解が抑制されるというモデルを提案した。これを運動中のキネシンのサブドメインの回転を一分子レベルで検出することで検証することにした。当初は一分子FRET法を用いて、サブドメインの回転の検出を様々な標識位置の組み合わせで試みたが、回転前後のFRET効率変化は最大でも8%で、運動中の構造変化を検出するには不十分であった。そこで次に東大工学部応用化学専攻の野地研究室と共同で、金ナノロッドを高速暗視野顕微鏡で観察し、その三次元的な角度変化を一分子レベルで検出する方法を開発した。この方法を用いて、キネシンの片方の頭部のサブドメインに特異的に結合させた金ナノロッドを100usの時間分解能で観察し、運動中のキネシンの金ナノロッドの変位と角度変化を求めたところ、頭部が微小管に結合している間に15°程度の角度変化を一回だけ行うことが明らかとなった。また角度変化の前と後の持続時間はほぼ同じであり、これは前頭部では回転が抑えられるが、後ろ頭部になると回転が安定化されるという上記の仮説を直接裏付けるものである。
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