研究課題/領域番号 |
24370065
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
櫻井 実 東京工業大学, バイオ研究基盤支援総合センター, 教授 (50162342)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | LEAペプチド / タンパク質凝集 / 乾燥耐性 / 水 / リポソーム |
研究概要 |
本研究では、LEAタンパク質の示すタンパク質や細胞に対する凝集・融合抑制効果及びシャペロン機能を物理化学実験とin silicoシミュレーションより解明し、生物の乾燥耐性のメカニズムを明らかにするとともに、産業的応用も目指す。 平成25年度は、LEAタンパク質の繰返し配列部分をモデル化したペプチド(A K D G T K E K A G Eの2回繰返しペプチド、以下PvLEA22)がリポソームに対して乾燥保護機能を示すかどうかを調べた。リン脂質POPCからなるリポソームの乾燥水和後の凝集・融合の程度は濁度や粒径分布を乾燥前と比較することにより見積もった。その結果、PvLEA22は濃度依存的にリポソームの凝集や融合を抑制し、特にPOPCに対しモル比で0.7程度添加すると、乾燥後もほぼ完全にオリジナルの粒径分布が再現される、すなわちほぼ完全に保護されることが判明した。比較のため用いたアミノ酸組成が同一で配列を乱したコントロールペプチドについても同様の結果が得られたことから、このような保護能にはアミノ酸組成が重要であることがわかった。さらに、poly-L-Lysやpoly-L-Gluではこのような保護機能を示さなかったことから、全体が電気的中性であることが重要な因子でることも推測された。 FTIR測定の結果より、PvLEA22は水溶液中では無構造(disorder)であるが、乾燥状態で膜に結合するとβシート構造をとることが判明した。すなわち、パートナーに結合し機能を発現するときはじめて構造化するという意味で、PvLEA22は典型的なIDPの性質を持つことが判明した。 PvLEA22とタンパク質(リゾチーム)との相互作用に関しては、昨年度に引き続き分子動力学シミュレーションを実行した。その結果より、LEA22モデルはタンパク質表面のArg残基にまず結合しそのあと構造を変えながら、タンパク質表面を“シールディング”することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
PvLEA22によるリポソームの乾燥保護実験では、当初予定してなかった動的光散乱の実験が可能となり、保護能についてより定量的なデータが得られ、研究のレベルが一段上がったと思う。 コンピューターシミュレーションについていうと、前年度より多くのトラジェクトリーデータをとることにより統計的に信頼性のある結果が得られた。その結果、PvLEAはタンパク質表面のどの残基とより高い確率で結合するかがわかった。特にArg残基と優先的に結合するという結果は、今後、Argを含む細胞透過ペプチド(CPP)を利用したPvLEAの細胞内輸送へ向けて研究の新しい展開が開けたので、意義深い。
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今後の研究の推進方策 |
1.PvLEA22とパートナータンパク質(たとえばリゾチーム)間に働く遠達力の起源を水の役割の観点から調べる。具体的には、PvLEAとリゾチームの接近・接触過程に対し3D-RISM法で、水のエンタルピー、エントロピー及び自由エネルギーを評価する。同様に、PvLEAとリポソーム間の遠達力に関しても1と同様の解析を行う。さらに、同様のシミュレーションをコントロールペプチドに対しても行う。 2.PvLEAの細胞乾燥保存への応用を目指して、HepG2細胞内にPvLEAの遺伝子を導入・発現させ、どの程度の乾燥耐性が得られるかを調べる。また、PvLEAを細胞内に輸送する手段として、R9などのCPPを用いた実験も試みる。この場合、前述したArgとPvLEAの親和性に期待して、両者をconjugateせずに弱い相互作用によって複合体形成させエンドサイトーシスなどの過程を経て取り込ませることを試みる。 3.酵素や不安定タンパク質の乾燥安定化を目指し、再水和後の酵素活性の保持率、コンホメーションの保持率等をLDH、ADH及びGFPなどに対して調べる。可能であれば、医学への応用を目指して、インスリンの乾燥保存も試みる。
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