研究課題
本研究は、張力負荷によりアクチンフィラメントが構造変化し、それによってミオシンモーターとの結合が促進されるという仮説の検証を目的とする。具体的には、以下の三つのサブテーマで研究を進めた。サブテーマ1:伸縮性基板上にアクチンフィラメントを固定し、力を負荷したときに、蛍光標識したミオシンモータードメインの結合量が増えるかどうかを蛍光顕微鏡で検討する。今年度は、顕微鏡下でシリコーン伸縮性基板を観察し、さらにこれにアクチンフィラメントを固定して、張力を負荷することに成功した。ただ張力負荷時に基板表面が移動するため観察中に焦点を維持することが困難で、蛍光ミオシンモータードメインの結合を定量的に観察するには至らなかった。サブテーマ2:マイクロピラーアレー上で細胞を培養し、細胞の局所に負荷されている力を見積もる。別途、蛍光色素の蛍光強度からアクチンフィラメントの本数も見積もり、アクチンフィラメント1本に負荷される力を見積もることを目的とする。今年度は、ピラーアレーを作成し、その上で細胞を培養したが、ピラーアレーと顕微鏡システムの相性が悪く細胞の詳細な観察ができなかった。サブテーマ3:研究協力者である京大・安達教授のご協力を得て、アクチンフィラメントへの張力負荷時のMDシミュレーションを行い、張力負荷により距離が変化すると思われるアクチンサブユニット内の残基ペアをリストアップした。さらに、それらの距離変化を実測するための分子内FRET用二重蛍光標識アクチンを作成した。現在、in vitroでアクチンフィラメントに張力を負荷する系が動いていないので、まずはそうした蛍光アクチンを細胞に導入し、細胞の部位ごとにFRETシグナルに差異があるか検討したところ、有望な予備的な結果が得られた。
3: やや遅れている
サブテーマ1:伸縮性基板上でのアクチンフィラメントの観察と張力負荷の影響の評価について、最終目的に向けて着実に進捗している。張力負荷時に焦点がずれてしまうという技術的問題が生じているが、「推進方針」にあるように、この問題は解決できる可能性があり、また仮に解決できない場合でも、アクチンフィラメントへの張力負荷がミオシンモータードメイン結合量に及ぼす影響は検証可能と考えている。サブテーマ2:ピラーアレー上での細胞の観察ができておらず、三つのサブテーマのうち、このサブテーマは進捗が遅れている。サブテーマ3:分子内FRETアクチンの調製が順次進んでおり、その面では順調に進捗しているが、FRETアクチンのin vitro評価系構築が遅れている。代替策としてin vivo観察を試みたところ、有望な予備的な成果が得られており、このサブテーマは全体としてやや遅れていると評価する。以上のように三つのサブテーマは、それぞれおおむね順調、遅れている、やや遅れている状況にあり、全体としてやや遅れていると評価する。
サブテーマ1:顕微鏡の焦点が、張力負荷時に伸縮性基板上のアクチンフィラメントからずれてしまうという問題については、伸縮性基板を顕微鏡ステージと正確に平行に固定することによって解決できる可能性があると期待している。しかし仮に解決できない場合でも、伸縮前後で同じアクチンフィラメントを観察することを断念し、伸縮後のフィラメントへのミオシンモータードメイン結合量を、伸縮方向とその直交方向に分けて解析することで、目的を達成することができると考えている。サブテーマ2:ピラーアレーの材質を現在のシリコンからPDMSに変更する。サブテーマ3:分子内FRETアクチンのin vitro評価系(サブテーマ1)を急ぐ一方、有望な予備的な結果が得られているin vivo観察を推進し、細胞内アクチンフィラメントの構造多型性の実証を目指す。
産業技術総合研究所においては、今年度は運営費交付金で購入した試薬類を使用する機会が多く、物品費が当初想定より安くなった。山口大学においては、ピラーアレーの構築が遅れたため、それを使った実験に用いる試薬の購入を次年度に延ばした。産業技術総合研究所においては、主としてポスドクの雇用費に充当する。山口大学においては、ピラーアレーを使った実験に用いる試薬を購入する。
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