研究課題/領域番号 |
24370070
|
研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小椋 俊彦 独立行政法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 主任研究員 (70371028)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 電子顕微鏡 / 画像情報処理 / 非染色生物試料 / 生命分子計算 / 3次元構造解析 |
研究概要 |
本年度は、前年度に立ち上げた熱電子銃型走査電子顕微鏡を用いたX線検出システム及び、2次電子透過検出システムを用いて、水溶液中の生物試料の観察を行うための観察ホルダーの開発を行った。これまでの観察ホルダーは、大気圧環境を保持していたが、水溶液試料を封入すると水溶液の厚さが40μm以上となり、軟X線や電子線がほとんど透過せず、観察が困難であった。そのため、厚さが10μm以下となるよう改良を加え、かつ真空中での気密性を向上させた。これにより、安定して水溶液中の生物サンプルの観察が可能となった。軟X線の観察では、熱やX線によるダメージが予想以上に大きく、生きた状態での観察は困難であった。一方、透過2次電子は、数μの厚さを透過することが難しく、観察自体が出来なかった。そのため、生物試料へのダメージが少なく、かつ水溶液を良く透過する観察方法を新たに開発した。この方法では、ホルダー上部の窒化シリコン薄膜にタングステンの薄膜を形成し、ここに30~60kHzで変調した電子線を入射した。電子線の変調には、走査電顕内に専用の偏向板を導入し対応した。タングステン層に入射された電子線は、散乱・吸収され、入射部位に電位変化を生じる。こうした電位変化は、10μm程度の水溶液層を透過し、ホルダー下部の検出端子により検出される。これにより、水溶液中の生物試料をダメージ無く、そのままの状態で観察できることが確認された。この結果は、当初の目標である水溶液中の生物試料や有機材料を高分解能でダメージ無く観察する技術開発に合致するもので、極めて重要な成果と考えられる。これらの成果は、オンラインジャーナルのPLoS ONEに発表した。現在は、この方法の高分解能化や高精度化、さらには3次元構造解析のための多素子検出器の開発を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水溶液中の生物試料を電子線ダメージ無く、非染色・非固定のまま観察する観察技術を開発しており、当初の目標をほぼ達成した。こうした成果は、1本の国際誌に発表することが出来た。さらに、この方法の高分解能化や高感度化の開発も進展しており、当初の目標である、生物試料の組成分析と3次元構造解析はほぼ達成出来る見込みである。
|
今後の研究の推進方策 |
電位変動伝達による観察システムの高感度化と高速化、多素子化を進め、水溶液中の生物試料を高コントラスト・高分解能での観察を可能とする。そのためには、検出アンプを改良し、増幅度とSN比を向上させる予定である。また、電子線のチョッピング周波数を変化させ、各周波数による透過率の違いから生物試料の組成を分析する方法を確立する。さらに、多素子アンプによる検出データから3次元構造を解析する手法を開発する。これと並行して、本観察システムを高分解能FE-SEMへと導入し、10nm以下の分解能を達成する。
|