溶液中の細胞やバクテリアを生きまま直接観測することは、生物学における長年の夢である。特に生きた細胞内のタンパク質をダメージ無くクリアに観察できれば、ガン化やその転移といった病気のメカニズムを分子の3次元構造レベルで解析することが可能となる。これは、様々な病気の治療に結びつくだけでなく、発生や分化、神経伸張等の生物学における基礎的研究をも大きく進展させる。 本年度は、溶液中の生物試料を染色や固定化処理なしに高コントラストで観察する技術の高分解能化を行った。これまでは、窒化シリコン薄膜上にチタン等の電子線により軟X線を放射する金属を用いていたが、これをタングステンに変えることで、入射した電子を全て吸収させ、この電位変化を水溶液中のサンプルを透過し検出することで観察を行う。水の比誘電率は80と高く、生物試料は2~3と低いため、この差がコントラストとなるため、染色処理なしに観察を行うことが可能である。この検出信号の高感度を行うため、窒化シリコン薄膜上のタングステン層にバイアス電圧を加えた。これにより、検出信号が100倍以上向上し、より高コントラストで質の高い画像を得ることが可能となった。さらに、電界放射走査電顕にこのシステムを導入することで、溶液中のバクテリアやウイルス、タンパク質複合体を8nmの分解能で観察するこが出来た。また、3次元構造解析に関するアルゴリズムを開発し、電顕画像に応用することでタンパク質レベルでの構造変化を捉えることを可能とした。この結果は、当初の目標である水溶液中の生物試料や有機材料を高分解能でダメージ無く観察する技術開発に合致するもので、当初の目標をほぼ達成したものと考える。これらの成果は、国際誌に4本の論文として発表した。
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