本課題は、HP1が形成する構成的ヘテロクロマチンとポリコーム(PcG)複合体が形成する条件的ヘテロクロマチンとのクロストークの分子基盤を明らかにすることを目的としている。申請者らによるプロテオミクス解析により、HP1結合因子としてPcGのうちPRC2 (PcG repressive complex 2)複合体とG9a複合体が同じ結合様式でHP1と相互作用することが示唆された。昨年度までに、PRC2複合体の相互ネットワークを明らかにした。これを踏まえて今年度は以下の研究を実施した。 G9a複合体の構成因子、G9a、GLP、WIZにタグを付加して安定発現株を作製した。これらの安定株を樹立し、用いて免疫沈降による複合体解析を行った。新規のG9a結合タンパク質を4種類見出し、G9a複合体の多様性が示唆された。一方、PRC2複合体がどのように構成されているのか、各サブユニット間の相互作用を明らかにする方法として、細胞抽出液からの免疫沈降法、酵母2ハイブリッド法など検討した結果、バキュロウイルス発現系が有効であることを実証した。具体的には、複合体構成因子にそれぞれ異なるタグを付加して共発現することにより、相互作用の有無を確認することができることがわかった。また、PRC2複合体を構成するコアのサブユニットであるEZH2、EED、SUZ12、RbAp46を共発現させ、EZH2に付加したタグから免疫沈降により精製を行うとヒストンメチル化活性を再構成することができた。これらの解析から、バキュロウイルス発現系により、PRC2をはじめとするヒストンメチル化酵素の細胞中の複合体の再構成と、複数構成因子の相互作用の検定が可能となった。これらの知見、技術は、HP1、PRC2、G9aが関与するエピジェネティックスのネットワークの実態の解明に役立つものである。
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