研究課題
リボソーム中に複数コピー存在するストーク蛋白質の、高速・高効率な蛋白質合成機構への寄与を分子レベル解明する目的で平成25年度は以下の解析を実施し、新たな知見が得られた。1.ストークC末端と翻訳因子間複合体の結晶構造精密化:古細菌Pyrococcus horikoshiiの翻訳伸長因子であるaEF-1αまたはaEF-2とストーク蛋白質aP1のC末端ペプチドからなる複合体の結晶構造が解明され、疎水性相互作用を中心とした因子とストークC末端間の結合様式が原子レベルで解明された。また、他の古細菌Aeropyrum pernixの翻訳開始因子IF5BとストークC末端量体間複合体の結晶化にも成功し、それぞれの因子の固有なストークC末端結合部位を同定した。2.aP1ストーク二量体とaEF-1α/aEF-2の同時結合性の解析:光散乱法により決定した分子量解析より、大腸菌に発現させた遊離型古細菌aP1は二量体ではなく、四量体であることが判明し、aEF-1α/aEF-2の同時結合性の解析を再検討した。四量体aP1に過剰量のaEF-2を加え生じた複合体に対し、aEF-1αを加えることで、aEF-1α・aP1四量体・aEF-2の複合体の形成がnative-PAGEで確認できた。しかし、質量分析や分子間相互作用システム(Biacore)ではその結果を支持する明確な結果は得られなかった。3.古細菌 aP0(aP1)2(aP1)2(aP1)2、真核P0(P1-P2)(P1-P2)の各二量体の機能と協調性の解析:本年度は主に、真核生物のP0(P1-P2)(P1-P2)五量体における各P1-P2二量体のはたらき、およびP1/P2各C末端の機能を各種変異体を用いて解析し、五量体のP1/P2各C末端部位が翻訳因子リクルート機能を有していることが判明した。またP1-P2二量体のNMR解析によりC末端が半径125オングストロームの範囲で柔軟に運動していることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では平成24年度より、翻訳伸長因子であるaEF-1αまたはaEF-2にストーク蛋白質aP1のC末端部の合成ペプチドを結合させた複合体の構造を解明するため結晶構造解析を実施し、平成25年度には結晶構造の精密化を行い、両伸長因子とストークC末端の結合機構の構造基盤を明確に示すことに成功した。さらに、平成25年度に翻訳開始因子であるIF5BとストークC末端の複合体の結晶構造も明らかなり、各翻訳因子の固有なストークC末端作用部位を世界で最初に同定し、相互作用の構造基盤を二年間で解明できたことは大きな成果である。平成25年度はまた、真核生物のストーク複合体の構造・機能面で二点の重要な成果があった。一点目は、真核生物のP0(P1-P2)(P1-P2)ストーク五量体の各種変異体を用い、共通C末端それぞれの機能を検出し、いずれのC末端も翻訳因子の受容性に機能していることを明らかにした。二点目は、P1-P2のストーク二量体のNMR解析により、C末端部位が半径125オングストローム範囲で柔軟に運動していることを明らかした。ここまでの結果により、各ストークのC末端で翻訳因子と結合するが、ストーク複合体において複数コピー存在するストークはそれぞれ柔軟に運動し、翻訳因子の捕獲の効率を高めていると考えられる。以上の結果により、本研究の目的である、タンパク質合成の効率を高める仕組みの解明に向けて、順調に進展していると言える。しかし翻訳伸長サイクルでaEF-1αとaEF-2が交互に作用する仕組みを説明するデータはまだ不足している。これらの相互作用は動的で、当初計画した質量分析やBiacoreによる解析では検出が困難である可能性があり、新たな手法を取り入れる必要があると思われる。
平成25年度までにストークC末端とaEF-1α、およびC末端とaEF-2間複合体の結晶構造データが得られている。平成26年度は国際学術論文に投稿し報告する予定である。平成25年度の解析により単離した古細菌aP1ストークは二量体ではなく、四量体であることが判明し、aP1ストークとaEF-1α/aEF-2の同時結合性の解析をさらに困難にした。そこで平成26年度は、aP1が二量体を単位として存在することが確認されているaP0との複合体を用いて、aEF-1α/aEF-2の同時結合性を解析する。ストークと二種類の因子との相互作用は動的なものと考えられ、質量分析、プルダウン法やBiacoreによる解析では検出が困難であった。そこで、平成26年度は、相互作用の分析に感度の高い測定が可能な蛍光偏光測定器(既存設備)を用いて解析する予定である。平成25年度に真核生物のP1-P2ストークに関する機能面がかなり明らかにされたが、真核生物ストークの場合、古細菌のような強い翻訳因子結合性は認められていない。高等動物のストークの特徴としてC末端に2カ所のリン酸化部位が存在することがあげられる。平成26年度はヒトのP1-P2二量体を用いてリン酸化と翻訳因子結合性との関係を解析し、ストークC末端の機能を真核生物にも展開する予定である。
ストーク(aP1)のC末端ペプチドと各種翻訳因子間複合体の結晶構造解析の研究が順調に進み、平成25年度は主に平成24年度の解析データを用いた構造モデル構築を実施した。そのため、当初計上した結晶化関連の物品費の使用が低額となった。またストークと翻訳因子間相互作用に関する実験で、当初予定したプルダウンアッセイやゲル濾過の分析では有意な相互作用が検出できず、分析が予想通りには進まなかった。そのため生化学分析用試薬の使用も当初の予定額を下まわった。平成26年度は、測定の進行が遅れているストークと二種類の伸長因子間相互作用の解析に力点をおき解析を進める。まずaP1ストーク複合体と翻訳因子間の相互作用解析ではNative gel電気泳動法に加え、蛍光偏光測解析装置(現有設備)を用いる。そのため、当初予定していなかった各種蛍光試薬を購入する他、微量のサンプルのタンパク質濃度の測定に適した備品である超微量分光光度計(NonoDrop2000)を購入し、解析を進展させる計画である。また、ここまでの研究で真核生物ストークC末端のリン酸化が翻訳因子受容性に何らかの効果が示されたので、当初の研究計画では重要視していなかったが、リン酸化酵素やリン酸化合成ペプチド等を含む真核生物ストーク研究に要する生化学研究用試薬の購入も予定している。
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