研究実績の概要 |
我々は細胞が染色体の均等な分配を保証する種々の機構を「染色体安定性システム」と名付けてその解明をすすめ、染色体分配に関与する新規分子CAMPを同定した(EMBO J, 2011)。本研究はこれを発展させ、染色体安定性システムの分子機構を明らかにすることを目的とする。平成26年度は以下のような研究を行った。 1. 染色体安定性に関する分子群の機能の解析 i) CLIP-170の染色体整列に関する機能の解析:CLIP-170は動原体と微小管の結合の成立を介して染色体整列に関与すると考えられ、ダイナクチンのサブユニットであるp150gluedと結合することにより動原体に局在する。興味深いことにp150gluedをノックダウンすると、CLIP-170を単独でノックダウンした場合よりも染色体整列異常が軽度であった。検討の結果、CLIP-170はダイナクチンと結合しているモーター分子ダイニンによる染色体を紡錘体極へと輸送するはたらきに拮抗して、動原体の微小管末端への結合を促進している可能性が示唆された。 ii) 染色体の迅速な整列機構の解析:分裂前中期に染色体が紡錘体赤道面に迅速に整列することは、動原体と微小管の正しい結合の成立に重要であると考えられる。そこで染色体整列の機構について解析を行ったところ、これまでヒト細胞でのはたらきが明らかでなかったモーター分子Kidが分裂期初期の染色体の紡錘体中央への移動に寄与していることがわかった。また別のモーター分子CENP-EがKidに引き続いて染色体整列にはたらいていることが示唆され、2つのモーター分子の使い分けによる染色体整列のモデルを提唱した(Nat Commun, 2015)。 2. CAMPの個体および細胞レベルでの欠損による影響の解析 CAMPのホモノックアウトマウスは生後すぐに死亡し、その原因として神経系の異常を解析している。またCAMPを成体でノックアウト可能なコンディショナルノックアウトマウスを作成中である。
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