研究課題/領域番号 |
24370087
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
竹内 春樹 福井大学, 医学部, 客員准教授 (70548859)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 神経科学 / 神経回路 / 発生学 / 嗅覚 |
研究概要 |
本研究課題では、マウスの嗅覚系を用いて神経細胞の個性がどのように軸索末端に表現され、精密な神経回路が形成されるのかということを明らかにすることを目的としている。マウス嗅覚系では、個々の嗅細胞は多数存在する嗅覚受容体遺伝子からたった一種類を発現し、その発現した嗅覚受容体が様々な軸索ガイダンス分子の発現を調節することによって軸索投射を制御する。この過程でどのようなシグナルが嗅覚受容体を活性化し、どのように軸索ガイダンス分子の発現量を規定しているのかということについては、これまで明らかにされていなかった。 まず我々は、前者の問題を解明するために嗅覚受容体を含むGタンパク質共役型受容体がもつリガンドに依存しない基礎的な活性であるbasal activityに着目し、basal activityの度合いを変化させた変異型受容体を嗅細胞に発現させるトランスジェニックマウスを作製した。その結果、basal activityの強さが軸索ガイダンス分子の発現を制御することで、軸索の投射位置を決定していることを明らかにした。その研究成果については、本年度Cell誌に論文として発表した。 現在残されたもう一つの課題である嗅覚受容体に依存した軸索ガイダンス分子の発現制御機構の問題に取り組んでいる。我々は、軸索ガイダンス分子の発現が神経活動によって制御を受けるという知見を得ていることから、発現する嗅覚受容体の種類という情報が、神経活動の発火パターンの中に書き込まれ、その発火パターンを細胞が読み取ることによって軸索ガイダンス分子の発現量が規定されるという仮説を立てて研究を進めている。その一環として現在、嗅細胞の神経活動を光照射で制御することができる遺伝子改変動物の作出を行い、神経活動のパターンと軸索ガイダンス分子の発現量との因果関係を明らかにする実験系の構築を試みている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、大きく二つに分けた研究目的のうち嗅覚受容体を活性化するシグナルの実態という課題についてはそれがGタンパク質共役型受容体が持つリガンドに依存しない基礎的活性であるということを実験的に証明し、成果として論文という形にすることができた。 残された課題である嗅覚受容体による軸索ガイダンス分子の発現制御の問題に関しても、電気生理学的手法、光遺伝学的手法などを導入して現在実験データを得るための条件検討を行っている最中であり、本年度中には神経活動と軸索ガイダンス分子の発現量との間に何らかの相関関係を見出すことができるものと思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、平成25年度に作製した光依存的に神経活動を制御する事が出来る遺伝子改変動物を用いて、どの様な神経活動の発火パターンの時にどの軸索ガイダンス分子の発現に影響が現れるかを検証する。そのために、数時間から数日程度の期間の間、ex vivoで嗅覚組織を培養できるシステムの構築や光パルスの適切な照射強度の決定といった実験条件の検討が必要になる。本年度の上半期は、主に実験条件の検討や嗅覚受容体の種類毎に観察される神経活動の発火パターンの解析を行い、下半期には光遺伝学を用いて具体的にどのような神経活動の発火パターンがどの軸索ガイダンス分子の発現量を規定しているのかを明らかにする予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究計画の前半部分の実験に時間がかかり、後半部分の実験に必要な機材の購入が遅れた。特に後半の実験に必要と思われる組織培養システムに関しては、もともと複数台購入する予定であるが、現在一台購入して実際に本研究において有用であるかを検討している段階である。 後半部分の実験の速度を早め、当初の研究計画通りのペースで研究が進められるようにする。条件検討を終え、実験に必要な機材をそろえる。
|