研究概要 |
本研究はすべての動物門に属する各動物のミトコンドリアについてコドンとそれを解読するtRNAのアンチコドンを網羅的に解析することにより、動物ミトコンドリアの遺伝暗号の解読メカニズムを解明し、遺伝暗号システムの成立原理を探究することを目的とする。動物ミトコンドリアでは大部分の動物門において現在までに6種類の非普遍暗号(UGA,AUA,AAA,AGA,AGG,UAA)が発見されているが、UAAを除く5種類については、それらを解読するtRNAアンチコドンが特定の動物で解析され、アンチコドン1字目または2字目に存在する修飾塩基がコドン解読に決定的な役割を持つことが、主として本研究代表者のグループにより解明された。前年度までにすでに、ヒト、ウシ(哺乳動物)とマボヤ(尾索動物)のミトコンドリアtRNAの解析を行い、非普遍コドンに対応するtRNAのアンチコドンの1字目(ウォブル塩基)に修飾塩基(5-タウリノメチル(2-チオ)ウリジン(τm5(s2)U)、5-ホルミルシチジン(f5C)を同定した。平成24年度にはヤリイカ(軟体動物)のミトコンドリアtRNAを解析し、Trp.tRNAのウォブル位にτm5U、Leu.tRNA(UUR)、Lys.tRNA(AAR)のウォブル位にτm5s2U、Ser.tRNA(AGN)のウォブル位に7-メチルグアノシン(m7G)を発見した。驚くべきことにMet.tRNA(AUR)のウォブル位には未修飾のCの存在が明らかになり、これがコドン3字目の塩基をプリンに限定することが分かった。これまでの知見を総合すると、τm5(s2)Uやf5Cや未修飾Cはコドン3字目のプリン(AとG)塩基と対合し、m7はコドン3字目のどの塩基とも対合することが推定される。更にウォブル位の他の未修飾塩基UとAは4コドンと対合し、GはU,C,Aで終わる3コドンと対合することがすでに明らかになっている。これらの知見から、普遍暗号が成立する以前の初期遺伝暗号においては、修飾塩基を生成する酵素類がまだ存在していなかったと考えられるから、未修飾のtRNAだけで翻訳システムが成立していたと推定され、ウォブル位にそれぞれU,C,A,GをもつtRNAがどのようにコドンを解読して遺伝暗号表を作り上げていったかの経路を推定できるものと考えられる。
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