研究課題/領域番号 |
24370096
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
今井 啓雄 京都大学, 霊長類研究所, 准教授 (60314176)
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研究分担者 |
松村 秀一 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (30273535)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 霊長類 / 味覚 / 酵素 / 盲腸 / シグナル伝達 |
研究概要 |
これまでにヒト、チンパンジー、ニホンザル、中国のラングール、中南米のマーモセットが共通に持つ苦味受容体TAS2R16 の機能をタンパク質レベルで比較検討した結果、それぞれの種特異的な天然植物成分に対する反応パターンが観察された。このうち、サリシンについてはニホンザルの行動実験で感度が著しく低いことを確認するとともに、特異的な採食活動との関係が示唆されたが、他種や他のリガンドについての機能は不明である。そこで、タンパク質レベルでの機構を様々な変異体を用いて解析した。 まず、ニホンザルとヒト、ラングールのアミノ酸配列を比較検討した結果、7カ所のアミノ酸がマカク特異的に変異していることがわかった。そこで、それぞれの箇所をニホンザル型にしたヒトTAS2R16の変異体を作成した結果、3カ所のアミノ酸変異は感度を減少させ、逆に 2カ所の変異は感度を上昇させることがわかった。感度を減少させる3カ所のアミノ酸をすべてニホンザル型にしたヒトTAS2R16はかなりニホンザルTAS2R16に近い応答を示した。さらに、感度を減少させる3カ所のアミノ酸をすべてニホンザル型にしたラングールTAS2R16は、ほぼニホンザルTAS2R16と同様の応答を示した。 一方で、これまでサンプルが得難かったアフリカ産オナガザルのDNAについて、研究協力者より数個体のフンを得る機会があったため、今年度は研究分担者の松村を中心に各苦味受容体の配列を種ごと、個体ごとに決定した。TAS2R1, 16,38について種ごとにいくつかの変異が発見されたため、分子進化解析や機能解析によりその特徴を決定した。また、新世界ザルについてもいくつかの味覚受容体の種間比較を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度に実施したニホンザル・アカゲザルとコモンマーモセットを主な対象として、味覚情報伝達に関わる遺伝子の発現部位や時間変化を検討した結果を論文として発表した。報告した「マーモセットの盲腸で味覚情報伝達分子が発現している」事実は、多方面で反響を呼び、様々な学会等で招待講演の機会をいただいた。また、その席等で今後の研究の発展について消化酵素の解析など共同研究等の可能性が広がった。特に、TAS1Rで受容される甘味受容体、うま味受容体についても種間比較をする糸口が整った。 一方で、チンパンジーの味覚受容体の機能解析については国内外チンパンジー亜種の遺伝子型の確定を進めたため、機能解析は次年度以降に行うことになった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き様々な霊長類の味覚受容体の機能を分子レベルで解明していくと共に、盲腸における味覚受容体の機能について、霊長類以外の動物も用いた比較解析により解明していく予定である。また、嗅覚についても嗅覚が鋭敏と思われる霊長類種について特徴的な分子レベルな研究が可能かどうか検討してみたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
ポスドクの人件費として200万円あまりを計上したが、年度途中で当該ポスドクが他に職を得たため、人件費以外で使用することにした。一部はポスドクが実施できなかった酵素活性測定法の習得のために、研究代表者が米国NIHに渡航する旅費等に活用したが、その他は酵素活性測定や次世代シークエンサーによる発現解析を含む先端的解析のために次年度以降に使用することにした。 ポスドクが行う予定であった次世代シークエンサーによる解析は自動ライブラリ作成装置が導入されたため、消耗品費として用いるか技術補佐員を雇用する予定。また、マーモセット盲腸で発現している味覚受容体の機能解析や甘味、うま味受容体など新たな展開のために使用する予定である。
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