研究課題/領域番号 |
24370100
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
新関 久一 山形大学, 理工学研究科, 教授 (00228123)
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研究分担者 |
齊藤 直 山形大学, 理工学研究科, 助教 (20454770)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 心拍リズム / 運動リズム / 位相同期 / ガス交換 |
研究概要 |
本研究では,ヒトの呼吸循環-筋運動リズム間の位相シンクロが合目的性を持って生じるとする「テレオロジカル仮説」を実験的に検証することを目的としている。前年度に引き続き,トレッドミル上での歩行運動時の呼吸循環パラメータの挙動から,心拍-歩行リズム間の位相シンクロ発生時に肺ガス交換効率に変化が見られるか解析した。また,今年度は近赤外分光計により筋組織の酸素動態も計測し,位相同期時にどのような変化が見られるか計測を行った。昨年度はトレッドミルで漸増速度歩行運動を行ったが,今年度は一定速度で運動を行い,トレッドミルの傾斜が毎分0.5度づつ増加する漸増傾斜歩行実験を行った。14名の被験者をリクルートした。トレッドミルの傾斜を増していくと,歩行周波数はほぼ一定のまま心拍数が増していき,ある傾斜で心拍数と分時歩行数が一致する。心拍‐歩行リズム間の位相差が標準偏差で10%未満で,かつこの状態が30秒以上続いた場合を位相シンクロと定義した。シンクロ発生が確認できた被験者は14人中7人であり,シンクロ時間は平均172秒であった。シンクロ発生近傍の脱シンクロ時のデータを補間してガス交換パラメータを予測し,シンクロ時の実計測値との差異を調べたところ,酸素換気当量は平均2.2%の減少,ガス交換比は1.5%の低下,呼気終末炭酸ガス分圧は1.7%上昇した。酸素摂取量はシンクロ時に変化せず,換気量は2.5%減少したことから,酸素換気当量の減少は換気量の減少によるものである。筋組織ヘモグロビン濃度の変化を解析したところ,シンクロ時にΔ脱酸素化ヘモグロビン濃度は平均1.9%増加,Δ酸素化ヘモグロビン濃度は6.4%減少が見られた。これは位相シンクロ発生によって筋が血液中酸素をより多く抽出したことを示しており,代謝がより好気的になったものと推察された。今後さらにデータを積み重ねて検証を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度実施した研究成果は35th Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society ならびに第91回日本生理学会大会で発表した。また,心拍-運動リズムの位相同期現象に関するこれまでの研究成果や海外での研究動向についてReviewを執筆し,日本体力医学会の英文誌であるJournal of Physical Fitness and Sports Medicineに投稿して発表した。当初の計画で予定していた起立ストレス時の筋収縮と心拍リズムとのシンクロ現象の解析は実験は遂行したものの,解析が間に合わなかった。予定していた実験データの解析がまだ十分ではないという点で申請時の研究計画からはやや遅れていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究により,心拍-歩行リズム間の位相シンクロ現象が運動時の酸素換気当量の減少やガス交換比の低下をもたらす(エネルギー基質が脂質へ移行)などの示唆が得られたので,より説得力が増すようデータ数を追加蓄積して国際誌に投稿し発表していく予定である。2014年7月にオランダで開催されるEuropean College of Sports Science 2014国際会議においてこれまでの研究成果を発表する予定である。また,昨年度は起立ストレス時の筋ポンプと心拍リズムとの間にシンクロ現象が見られるか実験を行ったが,シンクロ現象の発生有無と心拍出量や圧受容器反射との関連性を検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
国際生理学会(37th International Congress of Physiological Sciences)で研究成果を発表する予定でいたが,直前に身内の不幸があり出席できなかったため旅費の一部が未使用となった。 研究成果を第19回ヨーロッパスポーツ科学学会大会(19th Annual Congress of the European College of Sport Science)で発表するための学会出張旅費に充当する予定である。
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