本研究ではヒトの呼吸循環-筋運動リズム間の位相シンクロが合目的性を持って生じるとする「テレオロジカル仮説」を実験的に検証することを目的とした。前年度に引き続き,トレッドミル上での漸増傾斜歩行運動時の呼吸循環パラメータの挙動および筋組織ヘモグロビンの酸素動態から,心拍-歩行リズム間の位相シンクロ発生時に肺ガス交換効率に変化が見られるか,運動筋での酸素利用や酸素供給に変化が見られるかについて解析を行った。新たに若年者7名の被験者を追加するとともに,今年度は中高年の同一被験者で繰り返し測定し,intra-subject variabilityを計測した。シンクロ現象の発生時間は若年者においては 56±21秒(n=7)であり,一方,中高年者の同一被験者における測定では175±47秒(n=8)であった。若年者においてシンクロ発生時に酸素換気当量が平均2.4±1.4%の減少,ガス交換比が2.3±1.5%減少した。また,筋組織の脱酸素化ヘモグロビン濃度変化が3.7±3.8%増加し,酸素化ヘモグロビン濃度は3.3±2.6%減少した。中高年者被験者での8回の繰り返し測定では,シンクロ発生時に酸素の換気当量は平均2.8±1.9%の減少,ガス交換比は1.6±1.5%減少した。また,筋組織の脱酸素化ヘモグロビン濃度変化が3.6±4.3%増加し,酸素化ヘモグロビン濃度は2.9±3.9%減少した。この結果はシンクロ発生によって筋が酸素をより多く抽出したことを示しており,代謝がより好気的になったものと推察された。また,位相シンクロ時の換気当量の低下は,筋収縮時の乏血状態が解消され換気刺激が減少したことによるものと推察された。研究成果はEuropean College of Sport Science 2014および第92回日本生理学会大会で発表した。
|