研究課題/領域番号 |
24370103
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
小谷 賢太郎 関西大学, システム理工学部, 教授 (80288795)
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研究分担者 |
鈴木 哲 関西大学, システム理工学部, 准教授 (50306502)
朝尾 隆文 関西大学, システム理工学部, 助教 (10454597)
大塚 明香 独立行政法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 産総研特別研究員 (80451417)
中川 誠司 独立行政法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 上級主任研究員 (70357614)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生理的多型性 / 触覚 / インタフェース / 適応 / 脳活動 |
研究概要 |
触覚ディスプレイで手掌に文字や図形などの情報を呈示する際,どのような方法で刺激を呈示し,情報を伝達するのかを検討することが重要である.特に本研究課題で開発している空気噴流刺激の場合,空気の特性によって触覚の時空間特性がピンなどを用いた刺激とは異なる可能性がある.皮膚に刺激を与えた場合,皮膚下の触覚受容器が反応し,そこから信号が脳へ送られ触覚情報が伝達される.昨年度までの研究において,空気噴流刺激での刺激強度や刺激呈示時間による触覚の時空間特性への影響については調査されていなかったため,本年度では特に空気噴流刺激における刺激強度と刺激呈示時間が触覚の時空間特性に影響を与えるかの調査を中心として研究を行った.特に空気噴流刺激において刺激間距離,刺激呈示時間を変化させた条件下で同時および遅延時間を与えた際の二点弁別閾を求めることで,主に刺激呈示時間が触覚認知に与える影響を求めることを目的とした実験と,触覚強度の心理実験を中心に行った.実験装置はこれまでに開発された空気噴流式の触覚ディスプレイを用いた.なお,今年度実験として空気噴流刺激を与える部位は,基節骨下部であるため,これまで用いられてきた12×12のマトリクス状に配置したノズルのうち,上側の4×12の部分を使用した.実験の結果,各刺激呈示時間において刺激間距離が増加するにつれて正答率が増加し,15mm以降でほぼ一定となった.さらに正答率に関して刺激間距離間で分散分析をおこなったところ,刺激間距離の間に有意差(p<0.01)がみられた.よって,刺激間距離が増加するにつれて有意に正答率が増加していることがわかった.このことから,手掌に対して空気噴流刺激を与えた場合,刺激呈示時間の変化による二点弁別閾への影響はなく,空気噴流刺激においても,二刺激の時間差をできるだけ短くすることで二点弁別閾が向上することを発見した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年の時点で,当初計画していた触覚ディスプレイの駆動プログラムを動作させることが出来たことにより,本年度は実験による現象解明を中心に成果を上げることができた.昨年度当初検討していた心理実験を推進でき,一定の成果が得られたことについては相応の達成が見られたといえる.本年度は構築した感触提示技術を用いた実験的検証を積み重ねていくことに焦点を当て,ヒトの生理的多型性を表現できる触動作をモデル化し,中枢系との関連性を調査することに主眼を置いて研究を進めていく予定であったが,実験を中心とした研究であったため,モデル化については最終年度に重点的に推進していく予定である.また,本年度の心理実験は生体計測とのリンクを意図したものであり,特に神経生理学的活動指標から掌の感度分布が推定できるかどうかを検討することを目的として,はじめに,空気噴流刺激を掌に呈示したときのSEFをMEGにより計測することができた点も当初計画とは異なるものの,相応の達成が見られた成果であるといえる.また,昨年度より行ってきた脳磁界応答の解析結果をもとに,体性感覚誘発脳磁界を求め,知覚量との対応関係を求めた点については新たな成果であったといえる.これは本年度開発した実験装置により,脳磁界応答計測時の触覚刺激提示装置と同様のものを実験室内で使用できる環境に構築できたことが大きいと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の触覚閾値評価実験において,二点弁別の際に初めにおこなう一刺激目の位置同定に関して定量的な結果を得たことを踏まえると,刺激呈示時間0.3secが一刺激目の位置同定をおこなうのに十分な情報量であり,それ以上刺激呈示時間を増加させても一刺激目の位置同定に有効な情報として用いられていないという考察をおこなったが,現時点ではこの考察の裏付けをすることができているとは言えない.よって,今後刺激呈示時間を0.3sec以下にした条件で今回と同様の実験をおこなうことで刺激位置を同定するために最低限必要な情報量である刺激呈示時間を明らかにする必要がある.また,これまでの研究経過として,空気噴流刺激を用いた非接触型触覚ディスプレイを使って文字や図形など二次元的な情報を正確にユーザーに呈示するための基礎研究として位置づけ,強度や時間を変化させた空気噴流刺激を用いた場合の手掌における二点弁別閾を測定し,触覚の空間分解能を調査してきた.今後の展望として,空気を用いることによって,ピンによる圧刺激や機械振動刺激では表現できないような立体的な感覚をユーザーが直感的に知覚して情報を取得できるような呈示方法について調査していくことを考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度未使用額は19,191円であり,主に解析データ(特に掌形状の二次元データと生体信号のデジタルデータ)を保存しておくために購入した記録媒体などが当初予定よりも安価になったことや,消耗品が昨年度の残りを有効的に使えたことなどがあげられる. 実績でも示した通り,本年度の成果により,掌の形状と硬さとの関係性をさらに評価する方向性で次年度の研究を進めようとしている.そこで,掌表面硬度の測定装置と触覚提示部の改良のための消耗品を物品として購入し,実験のために使用する計画である.また,本研究の成果を生理人類学会,ヒューマンインタフェース学会でそれぞれ知覚特性と掌硬度分布との関連性と最適化された情報提示技術に関する報告として学会発表する予定である.これにかかる旅費,ならびに関連の研究者を集めたシンポジウムの開催に関連する旅費の申請を計画している.また,皮膚硬度分布の実験を前年度のパイロットデータを補完する形で実施する予定であり,この実験の被験者に支払う謝金とデータ解析を進めるための実験補助を雇用するための費用を人件費・謝金として計上している.
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