研究課題/領域番号 |
24380012
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
大門 弘幸 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (50236783)
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研究分担者 |
松村 篤 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (30463269)
中山 祐一郎 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (50322368)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 作物生産科学 / 耐湿性 / 窒素固定 / 収量安定化 / 水田転換畑 / 剪葉 / 根粒 / 受光態勢 |
研究実績の概要 |
水田転換畑で大納言系アズキを安定生産するために,通常より1ヶ月早く播種し,その際に問題となる蔓化と倒伏による減収を軽減する開花期前の剪葉の効果を明らかにするため4カ年の研究を実行している.本年度は,湿害の影響を被りやすい京都大納言を供試し,早期播種と剪葉が莢収量に及ぼす影響を詳細に調査した.また,24,25年度における試験では,剪葉による受光態勢の変化などの知見は得られたものの,下位葉の光合成や窒素固定の変化,剪葉による分枝の発生と着莢節位,早期播種による倒伏の様態,栽植密度と収量構成要素との関係などの生理生態学的な変化については詳細には明らかにすることができなかった.従って,本年度はこれらの知見を得ることとした.6月19日に播種する早期播種区と慣行の7月16日に播種する普通期播種区を設け,栽植密度は16.7個体/m2の狭畦密植とした.剪葉直後にはLAIが1前後まで減少したが,剪葉約2週間後には下位節から多くの分枝が発生するとともに新葉が出現し,LAIと草高が回復し,下位葉の葉色値は無剪葉区よりも高くなった.9月7日以降,無剪葉区では蔓化と激しい倒伏のために草高が有意に低く推移した.9月3日と10月6日における窒素固定依存率は,無剪葉区で高かったが,生育後期にかけての低下程度は剪葉区で低かった.収穫時における倒伏は剪葉区で明らかに軽減された.子実収量は,無剪葉区でやや高かったものの,剪葉区,普通区の3処理区間で有意な差はなく,百粒重とタンパク含有率にも差異がなかった.収穫指数は剪葉区で0.53と最も高かった.無剪葉区では主茎,1次分枝,2次分枝で莢数を確保したが,剪葉区では1次分枝と2次分枝だけで無剪葉区と同様の値を得た.着莢位置には両区間で顕著な差異が見られ,無剪葉区では蔓化と倒伏のため低かったが,剪葉区では明らかに高く,機械収穫時のヘッドロスの低減が期待された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの2か年の学内の試験圃場における精密試験ならびに農家圃場の現地試験の結果から,剪葉後2-3週目でのLAIの急激な回復と分枝数の増大の可能性が予想されたが,本年度も同様の現象が生じ,この点は再現性が高いことが確認された.このような草型の変化とそれに伴う下位葉の光合成能の向上,窒素固定の生育後期までの維持,着莢位置の高位置化が最終的な収量やその年次変動に影響するか否かについて,最終年度において確認して結論づける必要がある.一方,剪葉により下位葉の光合成が向上することが,生育後期の根の機能維持,特に養分吸収と窒素固定に及ぼす効果については,本年度に道管液の分析によって明らかにした窒素固定依存率からある程度の推察はできるが,最終年度にさらに詳細に検討する必要がある.雑草管理における剪葉の影響について基礎的知見を得るために,昨年度に引き続き農家圃場における雑草発生の消長を調査したところ,3つの雑草群落型が区分され,圃場内の土壌要因の違いによって構造の異なる雑草植生が形成されることが明らかとなった.これを基盤的知見に剪葉後の雑草植生の変化について,次年度にさらに調査を継続する.これらのことから,自己評価としては,最終年度に研究を継続して生産現場に応用し得る技術として取りまとめるだけの達成度があったと考えており,概ね計画通りに遂行してきたと判断している.なお,受光態勢の改善によって下位葉の光合成能を維持することで根の発達を促し,それによりサイトカイニン合成能が維持できる可能性については,経時的に採取した道管液中のゼアチンリボシドのELISA分析によって検討を進める基盤ができたことから,最終年度に詳細なデータを蓄積できると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる27年度は,これまでの3か年の試験結果に基づいた実証研究を行うために,圃場試験では丹波地域の農家圃場を利用する.研究は研究協力者および現地生産者の協力を得て遂行する.なお,本技術の生産現場への応用の可能性を探るために,これまでの研究成果に基づき,圃場試験では,播種時期,播種密度,剪葉時期,剪葉強度についての再現性を確認するとともに,下位葉の光合成維持と根の機能(窒素固定活性とサイトカイニン合成能)との関係を生理生態学的により明確にして学術的基盤を得る.また,土壌環境要因が雑草とアズキの生育量に及ぼす影響について,26年度に得られた結論の一般性を検討するために,同様の調査を継続し,あわせて剪葉部分の畦内への敷設がその後の雑草発生に及ぼす影響を明確にするために,試験圃場において雑草植生を調査する.さらには,立案時から予備的試験にとどまってきた剪葉前後の根の生育と機能に関係すると予想される土壌微生物相の変動についても検討を進め,今後の研究の発展性を探る.以上の研究を行うことにより,早期播種と剪葉処理を組み合わせた場合に,生育後期の倒伏が軽減され,着莢位置が高くなるメリットを定量的に示し,あわせて,剪葉により受光がよくなった下位葉の光合成と生育後期の窒素固定の維持との関係について解析し,本技術の生産現場への導入の可能性を示すことで最終年度のとりまとめとする.なお,研究代表者は26年度3月をもって大阪府立大学生命環境学研究科を早期退職し,同4月に龍谷大学農学部に着任したが,赴任先では本研究を遂行するに十分な設備備品と試験圃場が準備されており,研究の遂行には支障がない.また,農家圃場については,これまで通り借用できることが確約されており,最終年度の研究を鋭意推進する予定である.
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