研究課題/領域番号 |
24380013
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
和田 博史 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 九州沖縄農業研究センター 水田作・園芸研究領域, 主任研究員 (40533146)
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研究分担者 |
森田 敏 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 九州沖縄農業研究センター 水田作・園芸研究領域, 上席研究員 (40391453)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 作物学 / 環境ストレス / 細胞生理計測 / 澱粉代謝 |
研究概要 |
人工気象室環境下において登熟期の水稲に高温乾燥風によるストレスを1~3日に渡って付与したところ,成長中の胚乳細胞ではリング状乳白粒を中心とした白未熟粒の発生が有意に助長され,48 時間以上の高温乾燥風付与では転流阻害に起因すると推測される粒重低下が起こることが,2か年の再現試験から確認された.しかしながら, 24 時間の短期間の乾燥風処理条件下の胚乳では浸透調節の発現に伴い,葉鞘・稈内の貯蔵炭水化物から穎果への転流はむしろ促進されており,玄米成長が保持される中で,澱粉集積阻害が起こり始めていることが示唆された.この短期間の高温乾燥ストレスにより誘導される白濁化の一要因と考えられる澱粉分解の関与を検証すべく,高温乾燥風処理開始に前日に炭素安定同位体(13C)を止葉に標識し,乾燥風処理開始までに13Cを澱粉表面に合成させた上で,高温乾燥風を処理し,玄米の澱粉画分から加水分解により得られたブドウ糖の同位体比を質量分析計により解析した. その結果,短期間の乾燥風処理条件下の胚乳では澱粉分解は有意に起こっていない可能性が示唆された.この解析結果は玄米を対象とする定量的PCRの結果,澱粉表面の電顕観察にも符合した.玄米レベルの定量的PCRの解析によると,短期の高温乾燥風条件下で,浸透調節が起きた胚乳細胞では,澱粉分解ではなく,むしろ澱粉合成系が一時的に遅延する可能性が示唆されている.また,白濁前の胚乳細胞層から採取した細胞液を対象に行った発現解析結果からも同様の傾向を確認するなど,サイトスペシフィックな視点からも,白濁化の機作についての知見が集積している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに細胞計測、水分状態計測、安定同位体解析、遺伝子発現解析を含む包括的な解析により、リング状乳白が発生するメカニズムの詳細が明らかになりつつある.胚乳における遺伝子発現のサイトスペシフィックな解析については抽出法の見直しを行い、別の手法で遺伝子発現の解析を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
短期間の高温乾燥風に伴う水ストレス条件下で澱粉合成が一時的に阻害される可能性が過去2年の解析結果から示唆されている.そこで、乳白粒の多発する穂内着粒位置の玄米内の白濁推定部位の細胞層を玄米から摘出し、澱粉合成・分解に関与する遺伝子群の発現をタイムコースかつサイトスペシフィックに定量化する.また、登熟初期から長期間の高温処理下で発現する代謝変化についても解析し、登熟中期に与えた短期の高温乾燥ストレスと登熟初期からの長期間の高温ストレスとの応答の類似性・差異について総合的な考察を与える.
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次年度の研究費の使用計画 |
セルプレッシャープローブ法により採取した胚乳白濁推定部位由来の細胞溶液を対象に遺伝子発現解析を行ったところ、組織レベルの遺伝子発現の結果と比較して、サンプル間の変動係数が比較的大きく、組織レベルの解析に符合する傾向は得られたものの、得られたサンプルが微量であった等の理由から、処理区間に有意差を認めるには至らず、抽出法を再検討する必要性が生じ、研究計画を一部変更した.計画の変更に伴い、当初度内に購入する予定であった物品(試薬・キット類、備品)の購入が遅れたため. 上記計画の変更により、既報の玄米レベルの解析結果と比較してサイトスペシフィックな解析が可能であることが確認されたことから、データの信頼性が大幅に向上する見込みである.本年度繰り越す基金分の予算を延長した分のポスドクの賃金と未購入の物品に充てる計画である.
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