研究課題/領域番号 |
24380026
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
佐野 輝男 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (30142699)
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研究分担者 |
原田 竹雄 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (10228645)
種田 晃人 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (70332492)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ウイロイド / RNAサイレンシング / ウイロイド特異的スモールRNA / マイクロRNA / ヘアピンRNA / 病原性 / 抵抗性 / 非コードRNA |
研究概要 |
I.ウイロイド特異的small RNA生合成機構 ① 強毒型と弱毒型のPSTVdに感染したトマト及び宿主特異性の異なるHpSVd変異体に感染したキュウリとホップに生成・蓄積するスモールRNAの解析から、PSTVd及びHpSVd特異的small RNAは病原性の違いに応じて量的・質的に変化し、塩基配列変異領域のホットスポットパターンが変化することを明らかにした(論文投稿準備中1件)。さらにウイロイド感染で特異的に発現量が低下するマイクロRNAを特定した(論文審査中1件)。② PSTVd強毒型と弱毒型間で構造領域を交換した2種類の新規キメラ分子の感染実験から、病原性は分子左側の病徴の強さを制御する領域と右側の増殖量を制御する領域の相乗効果で発揮されることを明らかにした。③ PSTVd強毒型と弱毒型には8箇所の塩基変異があり、特に分子右側の3塩基変異の1つは組織内移行との関連が示唆されるVirPI蛋白質結合予想領域(RYモチーフ)近傍に生じている。RNAiでVirPI発現量をノックダウンしたトマトを作出し、RYモチーフとVirPI相互作用の分析を開始した。 II.ウイロイド病原性発現機構 ① ウイロイド感染で発現量が変化するジベレリン生合成関連遺伝子gibberellinβ-hydroxylase由来のヘアピンRNAを発現する形質転換トマトを作出し、後代種子を採取した。 III.新規ウイロイド抵抗性戦略 ① PSTVdゲノム由来の6種類のヘアピンRNA、(1)ほぼ全長、(2)左末端領域、(3)全長から病原性領域を除いた配列、(4)PSTVd特異的small RNAホットスポットの1種、(5)病原性領域上鎖、(6)中央保存領域上鎖を発現する形質転換タバコ系統のRNAサイレンシング強度とPSTVd抵抗性を検定・評価した(論文準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
病原性が異なるウイロイド変異体を用いた実験から、ウイロイドの塩基配列と病原性の変化により、感染で誘導されるウイロイド特異的small RNAの発現パターンが変化することが明らかになり、当初予定した課題の一つが達成された。 また、ウイロイド感染植物に蓄積するスモールRNAの詳細な分析から、ウイロイドの感染により特異的に発現量が低下するマイクロRNA種を特定できた点は、当初の期待を上回る成果である。特に、ウイロイド感染で特異的に発現量が低下するマイクロRNAの中には病原性と関連するジベレリン生合成系遺伝子の転写因子(GAMYB)を制御するものが含まれていることから、ウイロイド感染から病徴発現に至る経路の解明に繋がる新知見が得られたと考えている。 さらにこれに関連して、ジベレリン生合成関連遺伝子gibberellinβ-hydroxylase発現量をノックダウンした形質転換トマトの作出・選抜に成功したことは、次年度(最終年度)に予定しているウイロイド病徴発現分子機構の解析を進める上で貴重な実験材料が得られたことを意味している。 以上、当初の予想を上回って、ウイロイドの病徴発現に関わる宿主側の遺伝子発現調節経路とその最終標的遺伝子群を絞り込むことができ、研究の新たな展開のための斬新な着想を得ることができたと自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
ウイロイドの病原性とRNAサイレンシングの関連性に関しては、分析を終了したPSTVdの強毒型と弱毒型に加えて、両者の構造領域を置換した2種類のキメラウイロイド及び宿主VirPIタンパク質の結合領域と予想されているRYモチーフ近傍に生じた変異を単独で有する2種類の変異体、以上合計4種類の変異体を用いた研究を完成させる。具体的には、PSTVdは分子左側の病原性領域で制御される病原性の強さと分子右側で制御される増殖能の相乗効果で病原性の強弱が決まることが明らかになったので、分子右側に存在する3塩基変異のうち、どれが最も重要な役割を果たすかを明らかにして、関連学会及び原著論文として成果を発表する。 ウイロイドの病徴発現に関わる宿主側遺伝子発現制御機構と最終標的遺伝子(群)の解明に関しては、2年目の研究で明らかになったマイクロRNAを中心に、様々な程度の病原性を有するウイロイド及びその変異体に感染した宿主植物及びgibberellinβ-hydroxylase遺伝子をノックダウンした形質転換植物を用いて、該当マイクロRNAの発現レベルを分析する。その結果を基に、「特定のマイクロRNAの発現レベルの低下を介してジベレリン生合成系遺伝子発現に影響が及び病徴発現に至る」とする新たなウイロイド病徴発現モデルを提案し、その妥当性を評価する。 RNAサイレンシングを活用した新規ウイロイド抵抗性戦略の開発に関しては、2年目までに6種類の異なるPSTVd遺伝子領域に由来するヘアピンRNAを発現する形質転換Nicotiana benthamianaのPSTVd抵抗性評価を完了した。しかし、N.benthamianaは実験植物に過ぎず、この技術を実用化するためには栽培現場で問題となるトマトなどの栽培作物での効果の確認が必須である。N.benthamianaで効果が認められたPSTVd由来のヘアピンRNAを発現する形質転換トマト系統も作出に成功したので、それを用いて、RNAサイレンシングを用いたウイロイド抵抗性戦略の実用性を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ウイロイドを標的とするRNAサイレンシングとウイロイド病原性発現機構を分析する研究項目で、トマトの生長制御・矮化に関わると考えられるジベレリン生合成関連遺伝子gibberellinβ-hydroxylase由来のヘアピンRNAを発現する形質転換タバコ(N.benthamiana)を作出し、ウイロイド感染に類似した症状発現の有無を観察したが、この形質転換植物にはウイロイド感染に類似した症状等が見られなかったため、当初予定したディープシークエンス解析による宿主遺伝子及びmicroRNA発現パターンの分析(80万円程度の経費を予定)を中止した。その代わりに、2年目後半に作出できた同じヘアピンRNAを発現する形質転換トマトに、ウイロイド感染に類似した葉巻症状が観察されたので、この形質転換トマト系統を次年度までに育成し、それを用いてディープシークエンス解析による宿主遺伝子及びmicroRNA発現パターンの分析を実施することにしたため。 平成25年度の後半に作出に成功した、植物の生長制御に関わるジベレリン生合成関連遺伝子gibberellinβ-hydroxylase由来のヘアピンRNAを発現する形質転換トマト(品種:Moneymaker)に、ウイロイド感染に類似した葉巻症状が観察された。この形質転換トマト系統を用いた宿主遺伝子及びmicroRNA発現パターンのディープシークエンス解析実験に使用する。
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