本研究は、当初、タバコモザイクウイルス (TMV) の複製機構の理解に向け、130K複製タンパク質のジスルフィド結合を介した高分子量複合体形成の意義の解明を目的とした。その後の解析で、ジスルフィド結合を形成できなくなった変異130Kタンパク質が複製複合体前駆体PMTCも形成できないことが明らかとなった。これを受けて、PMTCの形成機構の解析に重点を移し、130Kタンパク質は翻訳と共役してTMV RNA 5'末端から100ヌクレオチド (nt) の領域に結合し、PMTCを形成すること; 130Kタンパク質のヘリカーゼドメインを欠失させたMet-IR断片は、翻訳完了後もTMV RNA結合能を維持することを明らかにした。本年度は、Met-IRが結合するために必要な標的RNAの要件を調べた。TMV RNA 5'末端100 ntに相当するRNA (RNA1-100) とMet-IRを混合し、マイクロコッカルヌクレアーゼで処理すると、約70 ntのRNA断片が保護された。RNA1-100に5'末端側から22 ntあるいは3'末端側から25 ntの欠失を導入しても約70 ntの断片が保護されたが、それ以上欠失を大きくすると保護は見られなくなった。興味深いことに、保護が観察された5'あるいは3'欠失体の共通部分を含むRNA16-80では保護は全く観察されなかった。複製タンパク質の結合領域にはACA配列が繰り返し現れ、そのいくつかを他の配列に置換すると結合は観察されなくなった。また、ブルーネイティブポリアクリルアミドゲル電気泳動解析により、RNA1-100とMet-IRの複合体の大きさはおよそ100万Daと見積もられた。以上を総合して、ある決まった数のMet-IR分子が70 ntにわたるACA配列に富むRNA領域に結合したときに限って安定な複合体が形成される可能性が考えられた。
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