研究課題/領域番号 |
24380034
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
早川 徹 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (30313555)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | Bacillus thuringiensis / Cryトキシン / アカイエカ / 人工遺伝子 / 害虫防除 / 微生物殺虫剤 |
研究概要 |
抵抗性昆虫の出現を許さない次世代型Cryトキシンの開発を目指して、本年度は以下の項目について重点的に研究を進めた。 トキシン間相互作用の解析:複数のCryトキシンを投与した場合に起こるトキシン間の相互作用(協調 or 阻害)を解析するため、トキシン生産システムの確立とバリエーションの拡充を図った。まず前年度構築した人工Cryトキシン遺伝子(cry4Ba-S1、cry11Aa-S1、cyt1Aa-S1)を用いて、これらトキシンの生産を試みた。その結果、大腸菌での大量発現は達成できたものの、期待通りの可溶性タンパク質として生産できたものはCyt1Aaのみで、Cry4BaとCry11Aaについては大部分が不活性な凝集体を形成した。本研究で採用したpGEXシリーズ以外のベクター系の利用を検討中である。また本年度はisraelensis株以外のBt菌に由来する殺蚊Cryトキシン(Cry2Aa、Cry11Ba、Cry19Aa)についても大腸菌での発現用にコドンを改変した人工遺伝子をデザインして構築した。 殺蚊トキシンCry4Aaの解析:Cry4Aaに由来するポリペプチドとアカイエカ幼虫から抽出した刷子縁膜タンパク質間の結合親和性を解析した結果、ドメインIIのループα8 及び1とドメインIIIに相当するポリペプチドがCry4Aaと同等の高い親和性を示した。これらに含まれる機能構造が受容体との相互作用に関与する可能性が示唆された。また各種糖やキレート剤、2価陽イオンで処理したCry4Aaやアカイエカ幼虫を用いるバイオアッセイから、GalNAcやFucose、Mg2+イオン、プロテインキナーゼA阻害剤がCry4Aaの殺虫活性に影響することが示唆された。実験結果はCry4Aaの殺虫活性が小孔形成やシグナル伝達経路などを含む複数の経路で構成される可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
殺虫剤に対する抵抗性を発達させた昆虫の出現を防ぐため、作用機構の異なる複数のトキシンを同時に使用する方法が有効である。そのためには利用可能なCryトキシンのバリエーションを充実させ、各々の作用機構を理解することが重要である。また複数トキシンを同時に投与した場合に起こる相互作用についても解析を進めておく必要がある。利用可能なCryトキシンについては、israelensis株に由来する4種の殺蚊トキシン(Cry4Aa、Cry4Ba、Cry11Aa、Cyt1Aa)に加え、新たに3種の殺蚊トキシン(Cry2Aa、Cry11Ba、Cry19Aa)をコードする人工遺伝子が構築できた。一方、Cry4AaとCyt1Aaについては生産システムが確立できているものの、Cry4BaとCry11Aaについては活性のあるトキシンを十分に生産できていない状況にある。この問題については新しい発現ベクター系を導入することで対応しようと考えている。本年度はCry4Aaの殺虫活性に影響する因子について解析を進め 、GalNAcやFucose、Mg2+イオン、プロテインキナーゼA阻害剤などの因子を特定した。これらは作用機構に密接に関連していると考えられ、Cry4Aaの作用機構の全体像を解明するのに大きく寄与すると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 生産系の確立できた本Cry4AaとCyt1Aaに加えて、Cry4BaとCry11Aa、あらたに人工遺伝子を構築したCry2Aa、Cry11Ba、Cry19Aaについても効率的な生産系を確立する。場合によってはCryトキシン以外の殺虫トキシン(Vip, Mtx)等を研究に加えることも検討する。 (2) 生産系の確立できたものからアカイエカ幼虫に同時投与し、殺虫活性の変動を観察することでトキシン間の相互作用(競合 or 協調)を観察する。適宜変異体を構築して相互作用に直接作用するトキシン内の機能構造を特定する。 (3) これまで進めてきたCry4Aaの機能構造解析及び殺虫活性に影響する因子に関する解析の結果から得られた情報を生産系の構築できたCryトキシンに当てはめ、それぞれの殺虫機構に関する類似点・相違点を比較解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
構築した人工遺伝子を用いるCryトキシン生産系において、Cry4BaとCry11Aaの大部分が不活性な凝集体を形成したため、トキシン間の相互作用の解析に遅れが生じた。これはCryトキシン生産に新しい発現ベクター系を導入することで対応する予定である。 Cry4BaとCry11Aaの生産系を再検討する。新たに構築した3種のCryトキシン(Cry2Aa、Cry11Ba、Cry19Aa)遺伝子を構築したのでこれらと同時進行で生産系を確立する。トキシン間の相互作用については、これら全てのCryトキシンを用いた網羅的なものにする予定である。
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