研究課題/領域番号 |
24380035
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
高務 淳 独立行政法人森林総合研究所, 森林昆虫研究領域, 主任研究員 (80399378)
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研究分担者 |
仲井 まどか 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60302907)
国見 裕久 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50195476)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 昆虫 / ウイルス |
研究概要 |
昆虫ポックスウイルスの2つの遺伝子(1.宿主の発育を操作する遺伝子と2.宿主に寄生した寄生バチの幼虫を殺すタンパクをコードする遺伝子)がウイルスの生態へ果たす機能を解明する。具体的には、当該遺伝子をノックアウトしたウイルスと野生型ウイルスの適応度形質を比較し、これら遺伝子がどのように生態的な機能を果たしているのかを明らかにする。 1について、遺伝子ノックアウトウイルスのほかに、マーカーを遺伝子非コード領域に入れたノックインウイルスおよび、ノックアウトウイルスに当該遺伝子を入れなおすレスキューウイルスを新たに作成した。これらウイルスの病原力や、昆虫体重当たりの増殖数に差はなかった。しかし、野生型やノックインウイルス、レスキューウイルスに感染した宿主幼虫が蛹にならず死ぬまで幼虫のまま成長するのに対し、当該遺伝子をノックアウトしたウイルスでは、ほとんどの感染昆虫が、蛹ー幼虫中間体や不完全な蛹で死亡した。これらのノックアウトウイルス感染個体は幼虫で感染致死した個体よりも小さく、ウイルス産生量も少なかった。当該遺伝子の存在によりウイルスの適応度は高くなると考えられた。また、健全虫は、植物下のリター中等に蛹室をつくりそこで蛹化するが、ノックアウトウイルス感染虫も同様の行動をとり蛹室を作り、死亡した。野生型やノックインウイルス、レスキューウイルス感染虫はそのような行動はとらず、脱腸することにより、産生した娘ウイルスで周囲が汚染され、最終的に植物上から落下すると考えられた。当該遺伝子は、ウイルスの空間分布に影響し、伝播に影響するものと推察された。 2について、作成したすべてのノックアウトウイルスが宿主に寄生した寄生バチを殺すことが判明した。ウイルスゲノムに機能的ホモログが存在することが強く示唆されたため、それもノックアウトするための、組換えベクターを構築し、組換えウイルスの作成に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、2つの遺伝子について解析をすすめる計画である。すなわち、宿主の発育を操作する遺伝子と蜂を殺すタンパクをコードしている遺伝子である。宿主の発育を操作する遺伝子については、当初の予定通りに進んでいるが、蜂を殺すタンパクをコードする遺伝子については、これまでにクローニングした遺伝子のほかにも、その機能に寄与する遺伝子の存在が強く示唆されたことから、その遺伝子についても解析を進める必要が生じたため。
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今後の研究の推進方策 |
発育を延長させる遺伝子について、遺伝子ノックアウトウイルス、ノックインウイルス、当該遺伝子を入れもどしたレスキューウイルスと親株ウイルスの宿主個体間の伝播の比較を行う。遺伝子組換えウイルスと野生型ウイルス感染幼虫をそれぞれ、ケース内に用意した鉢植えトウモロコシ苗に放飼し、死亡までの時間や死亡ステージを記録する。また、死亡虫の分布(葉、葉と茎の隙間、土壌表面など)も記録する。その後、健全幼虫を一定期間放飼したのち回収し、実験室内のインキュベータ中において人工飼料で飼育し新たに生じた感染数(伝播)を調べる。どのウイルスによる感染かの確認は、欠損および野生型ウイルスに特異的なPCR診断で行う。また、寄生バチ幼虫を殺す遺伝子については、本研究で取り扱う計画であった遺伝子(タンパク質を解析し寄生バチを殺すと分かっていた遺伝子)以外にも寄生バチを殺す遺伝子があることが分かったため、それら遺伝子もノックアウトしたウイルスを作成する。そのノックアウトウイルスを用いて、細胞レベルでの感染性や複製を調べ、さらに、宿主個体レベルでの感染性やウイルス増殖について解析する。幼虫期間を延長させる遺伝子の場合と同様に行うが、宿主にウイルス単独で感染した場合と、同一宿主に寄生バチとウイルスが寄生(感染)する場合について解析を行い、寄生バチを殺す遺伝子群がウイルスの適応度(繁殖)へ与える影響を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度末の物品購入に際して、予想できなかった値引きがあったことと、英文校閲料が予想よりも安くなったために生じた。 実験計画に基づき、物品費として適切に使用する。
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